人と人の「想い」を繋げていく為に「場」を提供する。自分の想像を超えた新しい世界を楽しみたい!

 

大手テレビ局にて32年間務め、更にはグループ会社の代表取締役だった伊藤さん。そんなハイキャリアな伊藤さんが、人を繋げる場所を作りたいと定年前に早期退職し開業する「ハルバル材木座」。人に刺激され変化を楽しみたいという伊藤さんが創りだす「場」×「想い」についてお伺いました。

名称:ハルバル材木座
URL:https://harubaruzaimokuza.com/
アクセス:JR・江ノ電 鎌倉駅から1.2km、徒歩15分、1800歩くらい

(聞き手)

  • 大西裕太/30代男性、チガラボのスタッフ、まちのキャリアラボメンバーです。大学卒業後は大手企業で経理の仕事に就かれていましたが、体調を崩して休職され、今はフリーとなりご自身の経験を活かせて誰かのためになる取り組みの形を地域の中で模索中。

ー もうまもなくオープンですね!

伊藤 そうですね。3/31オープンに向けて準備しています。

ー 「ハルバル材木座」さん。こちらはどのようなところですか?

伊藤 まずネーミングにこだわりがあって「ハルバル」っていうのにこだわってて、現在、コロナ渦でリモート会議が主流になっている中で古いかもしれないのですが、実際にお会いして目を見てちゃんと話してみるとかその場に身をおいて体感する事で人との距離が縮まるとずっと思っていて、今回もハルバル材木座を始めるにあたって、同じように個人でコワーキングスペースを運営されている人の話を聞こうと思って沖縄や山形へいったりしたんですよ。でもお会いしてお話を聞いた時間は15分とか30分とかなんです。時間は短くても「はるばる」行ったからこそ距離が縮まって今も繋がれていると感じます。もしメールや電話で内容を伝えてもそこまで距離感は詰められなかったと思います。

材木座っていうのは鎌倉市にあって駅からから15分くらいかかるんですよ。駅から結構かかる。そういう意味でもはるばる来てもらうという意味も込めてつけました。

内容はワークショップやコワーキングスペース、飲食をトライアルでやってみたい人に場所を提供する事を想定しています。とにかく人と人を繋げられる場所。利用者によってどんどん変化していくと思っています。僕が店主だし僕が決められるので利用者の方の用途によって変えて行こうと思っています。まずは「場」がメインですね。

ー 伊藤さん自身もどう変化するのか分からない・・!とても楽しみですね。
伊藤さんがどうして脱サラしてまで開業しようと思ったのか聞きたいんですけどキャリアのスタートを教えてください。

伊藤 大学卒業して一つの会社に32年勤めて去年の年末に退職しました。

ー 仕事はどのようにして選んだんですか?

伊藤 僕はドラマやスポーツ番組制作をやりたかったので、テレビ局を選びました。

ー ドラマとスポーツだとかなり違いがありますね。

伊藤 どちらかができれば良かったんです。

その中で両方できそうだったのがTBSでした。更にTBSはドラマに力を入れていて、当時人生を左右するようなドラマを数多く作っていて、ドラマをやるんだったらTBSっていう希望がありました。

エンジニアとしてドラマ制作部門で数年働いたあとにスポーツもやりたいという希望もあったので異動願いをだしてスポーツに関わる部門へ移動しました。

ー 仕事の性質的にもだいぶ違いありそうですよね?

伊藤 どこの会社もある程度の規模があると専門職だけで働き続けるていうのは難しいと思うんですよね。色んな職を幅広くやらせる。グループ会社には、その道の専門家がいる。ドラマからスポーツにいった経緯も単なる部署変更、そんな感じでした。

ドラマ制作をやっている時にはじっくりものを創るって事を学んだし、スポーツ部門では海外に行くと日本のルールは通じないので、色々なスタッフと関わり、文化が違う中でどうやったらこの人たちに認めてもらえるのかを行く度に応用していかなきゃいけない。

ー どんな事が面白かったですか?

伊藤 スポーツ部門は色んな国に行けるっていうのが良かったです。数えたら18カ国くらい行っていました。1回いくと期間は大体1ヶ月くらい行くんです。

アメリカに行く事が多くて、アメリカの契約形態はフリーランスが多かったんですよ。フリーランスの中でユニオンがあって就業時間の規則だったり、昼休憩は絶対に取らなきゃいけないだったりがあったんですけど、僕らとしては日本時間に対応してもらいたくても納得してくれないことがある。そんな中で日本の文化に近いカナダ人スタッフに入ってもらい、カナダ人経由でアメリカ人を説得したらうまくいくとか試行錯誤しながらやっていました。

ー それがまた違う国に行くとアメリカと同様のパターンは通用しないとかもありますもんね?

伊藤 そうですね。やっぱり人と文化をどう繋ぐかが大切でその国で日本の当たり前の事を当たり前に伝えても理解できずうまくいかないので、理解を尊重した上で日本流にやってもらうには色んな人を介して中和しなからうまくやっていかなくてはいけない。

ー 人を頼らないと上手く進まない。人との繋がりが大事になってくるんですね。現在も絶賛準備中だと思いますが、何か助けられたエピソードはありますか?

伊藤 開業準備をしていて消防の許可を得るためにそのまま消防署にストレートにいっちゃったんですよ。笑
でも役所って条例/法令を少しでも超えたものはすべて許可が下りないんです!規則にのっとっているので、こちらの状況を汲み取ってアイディアを出してくれたり、許可してくれる場所ではないんですよ。

最初はわからなかったので失敗もしたりもしながら、今回の事でいえば建築家の方や飲食店をやられている方に相談して、申請の上手な出し方や相談の仕方を教えてもらいました。自分の知識や経験だけではどうにもならないので色んな人の意見を聞いてから取り組んだ方がいい。これは本当に最近の大きい学びだと思います。

ー 原点はやっぱり色んな国に行って色んな方と関わってきた経験からですね。
ちなみにドラマとスポーツの仕事を32年間やってきて何か変化ってありましたか?

伊藤 自分のポリシーとして終わったことを振り返らず、ずっと次へ次へって前に進んでやってきたのでスポーツの仕事を長いことやってきて年齢があがってくると現場ではなくマネジメント側に移って行っても前向きに捉えていました。人事部にいったり関連会社の経営に携わったりして業務は変化しました。

ー 人事にいって感じた事ってありました?

伊藤 その時の先輩に言われたのが当時会社全体で1200人くらい社員がいたんですけど、全員を覚えろと言われました、なので人事部に入った時はその名簿をひたすら見て覚えました。だからすれ違っても「あ、この人は○○部署の○○さんだ」なんて思っていました。もちろんすれ違った時相手は僕のこと知らないんですけどね。笑

ー 1200人全員覚えるって中々できそうにないですよ。言われてそれをすぐに実行できるのって凄いですね。

伊藤 人事部って10人くらいしかいないんですよ。その10人で1200人に向き合わきゃいけない。更に1人が抱える業務の部分ってそれぞれ専門分野があるので単純に割り算で1人120人見れば良い話ではないので、やっぱり10人で1200人と向き合うしかない。

ー 1200人どうやって覚えたんですか・・・

伊藤 そんなに苦労しなかったですね。やっぱり人事部に行く前からすれ違った時や違う仕事でも遠くで見たことある人などいたので、この人どんな人だろうってく興味があったので、それを人と名前や部署で結んでいくだけだったので。

ー もともと人に興味を持っていたんですね。普段からそういった面は蓄積していないと難しいですよね。

伊藤 これは人事にいったからこそ覚えた感情で腹落ちした感じがしましたね。

ー 部署異動を経て退職して新たに自分で開業されると入社した時から考えていましたか?

伊藤 いや、全然。数年前までは普通に60歳定年まで働くだろうなと思っていました。

ー スタートするきっかけは何ですか?

伊藤 僕は定年前に退職したんですけど、自分の60歳定年とか65歳までの再雇用って国が決めたルールで自分のタイミングとは別じゃないですか。会社をやめるっていうのは何か止まってしまうってイメージがあるんですけど、次にやりたいことがあって移るタイミングは人それぞれなので、僕のタイミングだと子供が独立してやりたい事への意欲がピークを迎えていました。タイミングは定年だから良いタイミングがくる訳ではない。

たぶんあと5年待っていたらどんどん慎重になってしまう。自分の想いだけで妄想している時ってこうやったらうまくいかないかもってところも含めて色んな悪い妄想もしちゃうんです。いざやり始めてみると全く想像してなかった事も起きるけど、なんとか解決していけるし、自信にも繋がっていくしまず行動に移すしかない。そんな中で会社務めをしていると中々思うように動けないので行動に移しました。

ー やりたい「想い」はどうやってでてきました?

伊藤 ハルバル材木座を創ろうって思ったのは、自分自身が鎌倉から東京に通勤しているとどうしても地域に密着できないので、もっと密着したくなってきて、会社という組織の中で32年間生きているともっと違う価値観に触れたいと思うようになったからです。仕事、世代、関係なく多様な人たちとつながりたいと思った中で必要なのは「場」だった。チガラボも「場」だと思うんですけど、自分が利用者としていくのではなく運営側にまわりたいと思ったのがキッカケです。

ー 利用側と運営側で違いってなんだと思いますか?

伊藤 何かをやる時ってやっぱり想いがあるじゃないですか。想いが熟成して形になるのって何かしら仕組みが必要ですけど、そういう仕組みの一つが「場」だと思う。

「想い」「仕組み」「風土」全部まとめてやるには自分がやるしかないと思ったんです。ゲストだと風土にふれる部分がメインだと感じたので。

ー 仕組みや想いは中々ゲストだと分かりづらいかもしれないですよね。
どんな方であってもこうゆう想いを形にできる場所を目指しているって事ですか?

伊藤 そうですね。人と繋がると自分が持っている希望とか知識とかやりたい事ってどんどん広がっていく。これからこうゆう想いは必要だし物凄い大事だと思うので場が必要なんです。

本来の資本主義のような勝負の仕方ではなく生活の中の豊かさにフォーカスしたら価値観が変わってきたなと感じています。地域的にも”物より体験”に重きを置いているのが茅ヶ崎だったり鎌倉の特徴かなと思います。

ー 確かに湘南地域は独特の雰囲気ありますよね。いざ独立しようと思ったのはいつ頃でしたか?

伊藤 会社を辞める1年前ですね。その時にグループ会社の代表取締役をやっていて業務引継ぎや手続きもあったので1年前に決めたって感じです。

ー そこから1年は準備期間でした?

伊藤 そうですね。でも去る準備が大変でしたね。気を使ってもらうのも嫌だったし最後まで精一杯仕事をしていたかったので役員にしか言ってなかったです。他のお世話になった人には2ヶ月前に伝えました。

ー 周りの方々の反応はびっくりされてました?

伊藤 同じ世代の人たちはやっぱりセカンドステージへ目を向けている方も多いのでみんな興味津津でしたね。(笑)他にも人事部時代に関わっていた採用した若手や相談に乗ったりして寄り添っていた人達が挨拶にきてくれてとても嬉しかったですね。

ー 会社から離れてみて不安に思う事ってありますか?

伊藤 会社を辞めると当然ですけど会社のメールアドレスが使えなくなるんですね。急に会社の情報が入ってこなくなるので不安になるかなって思っていました。あとは会社って社員を守ってくれているので例えば病気になったらとか・・不安になるかなと想像していたんですけど、やらなきゃいけない事が多すぎてそれどころではなかったですね。(笑)さっきの海外の話もそうなんですけど違う境遇にいってもすぐに馴染んじゃうタイプだと思います。

ー そこに忙しさがあって不安を考えないのは伊藤さんの今までのライフスタイルもあるんでしょうね。

伊藤 準備に関してはまあ思い通りにいかない事が多いです。会社の場合ってそれぞれの役割があってその人に任せておけばスムーズに進んでいきますけど自分ひとりの場合だと自分がやらないと進まない、行動しないと解決もできないし、想定通りにいかない事も多々あるけどまあそういうものだよね!と思って楽しむようにやっています。

ー 適応することに慣れていますよね!適応能力がすごく高いです!

伊藤 もともと想定どおりにいかなくても失敗ととらえずに課題が明確化されたと捉えています。

ー 準備真っ最中の状況で伊藤さんの活動を通して思い描く姿ってありますか?

伊藤 自分の中だけで5年後10年後を想像すると限界があるんです。自分の中の経験値や知識だけで判断しなくてはいけないので、この先々が明るく思えないんですよね。これはできるけどあれはできないみたいな。大きな夢がもてない部分があるんです。ただし、ハルバル材木座をつくることによって多種多様の方が集まって、僕も影響受けられるし、そういった意味で人の影響を受けながら自分が変わっていくのが楽しみです!他の人と繋がる事で自分の想像できない事が起こる気がする。もしかしたら何年後には漁師になっているかもしれないし、海外に移住しているかもしれない!(笑)でもそれは他の人と繋がった事でみえてくる自分の想像を超えた事なのでそういった変化を楽しみたいです。

ー 変化を楽しめるって事ですね。自分の意図した変化はもちろんですけどそれ以外の変化を併せて楽しむってことですね。

伊藤 そうですね。日本含め、世界全体で10年後なんてどうなっているかわからない。でもその変化を受入れながら楽しんでいく。おそらくコワーキングスペースってチガラボもそうだと思うんですけど、自分の仕事に集中したいからくるっていうよりは、他の人の考えだったり違った生き方をしている人に触れてみたいって思っていると思うんですよ。そこに集まる人たちって僕と同じような思いで想像もしないおもしろい事に変化していきたい、変化したい人達の集まりだと思うんですよ。

ー これからのハルバル材木座さんがどうなっているか楽しみですね!

伊藤 5年後とかは全然違う形態になっているかも。(笑)違う形態になっていても僕の「想い」とは繋がっていくと思います。そういった意味でも自分が運営しないとそういうところ自由にできないので楽しんでやっていきます。

<インタビューを終えて>
伊藤賢一さんは、いつも優しげな眼差しでお話を聞いてくださいます。
初対面の時でも安心してお喋りをさせていただいたと当時のことを思い出す、そんなインタビューでした。
初めてお話しした時は、そういった雰囲気が伊藤さんのどのようなご経験からきているのかにとても興味がありましたが、今回のインタビューを通じて、元から人が好きというだけでなく、その背景となる文化をも理解しようとされてきたところにあるのだなと感じました。

誰に対しても対個人で接してくださる伊藤さんがつくる場「ハルバル材木座」が、今後どのような展開をするのか、僕も今からワクワクしています。
(大西裕太)

 

取材:大西裕太
文 :佐野絵梨子
撮影:あさな