過去の汚点をアウトプットしてあえてオープンに。“さらけ出す”ことで広がるキャリアのチャンス。

新卒でメガバンクに就職し、その後トーマツイノベーション(現ラーニングエージェンシー)で人材育成コンサルタントとして活躍。年間120件以上の研修や講演に登壇するほか、教育について語らうオンライン酒場「大二郎酒場」を運営されている稲葉大二郎さん。2020年にCHOとして教育系ベンチャーへ転職するも、そこで災難に見舞われます。アウトプットすることを何よりも大事にし、ネガティブな側面さえポジティブに変換して、現在は多様な働き方を実践されている大二郎さんに、アウトプットの大切さとキャリアについてお話を伺いました。
 
ー 2020年の4月からキャリアラボにジョインいただいて、そろそろ1年ですね。改めて大二郎さんのこと色々お聞きしたいと思っているのですが、キャリアの始まりからお伺いしてもいいですか?

稲葉 大学卒業後はメガバンクに就職して、約8年在籍していました。法人担当で融資や運用を主にやってましたね。銀行マンぽくなかったので、入社1、2年目の頃とかは「言うこと聞かなさそう」とか「生意気そう」って思われてて、悔しいから結果で見返してやる!って意気込んでました(笑)。数年経った後、大阪への転勤が決まって、最終的に4年半、大阪で過ごしました。

ー 確かに今の大二郎さんを見ていると、銀行にいらっしゃったって意外だなって思います(笑)。メガバンクの後、人材育成の領域に転職されていますが、銀行時代に何か転機はあったんですか?

稲葉 この大阪時代が自分にとっての転機の一つになってますね。もともと大阪に行く前は、あまり会社の同僚と飲みに行くってしなかったんですよ。仲の良い先輩と行くくらいで、あとは断って中高時代の先輩とかと飲みに行くっていう。そんな中、縁もゆかりもない大阪への転勤が決まったので、気軽に遊びに行ったり、飲みに行ける人がいなくって。ふらっと遊びに行くとしたら、たまたま大阪に配属になった知り合い2〜3人くらいで、結果的に銀行の先輩、同僚、後輩たちとよく遊ぶようになったんです。

それまでは基本的に先輩に可愛がってもらうタイプだったんですけど、大阪で出会った後輩たちがもう愛おしくて。銀行って異動があるので、こいつらと一緒にいられるのもあと数年だなって思った時に、何かしてあげたくなったんです。それで社内でOJTの担当者を決めるぞってなった時も立候補したりして、下に教えることが増えて。素直で人懐っこさはあるけど、銀行マンなのに数字が弱い後輩とかがたくさんいまして。彼らに数字が得意な講師連れてきて講義しても分からないだろうから、自分も苦手だけど勉強して彼らに教えたりしてたんです。業務以外のことも気軽に話せる関係でいたくって、みんなで将来の夢を語る会とかも開いたりしていましたね。18時まで仕事して、18時から19時までの1時間は別室で勉強会するというのをやっていたんですけど、この企画を考えるのが楽しくて楽しくて。それが、次のキャリアに繋がっていますね。

ー 大阪時代の経験が、人材育成領域への関心に繋がっていったんですね。次のキャリアではどのようなご経験をされたんですか?

稲葉 デロイトトーマツグループのトーマツイノベーション(現ラーニングエージェンシー)で人材育成コンサルティングをやりまして、研修とか育成計画や評価制度を練る仕事をしていました。評価制度や目標設定って、育成と強烈に関係があるんです。この時代はとにかく人前で話す機会が増えまして、年間120回くらい研修の講師をやったり、客先に行ってプレゼンするといったことをやってましたね。めちゃくちゃ激務でしたけど、人前で話すこと、アウトプットすることの大切さをここで学びました。銀行時代の2年目くらいまでは、数字の知識がなくてバカにされるのがイヤで、「稲葉の意見は?」って聞かれても「○○さんと同じです」とか「特にないです」って言っていたり、SNSも見るだけの人間だったんですけど、本当に損してたなぁと思いますね。

ー アウトプットする方が自分の中に染み込みやすいですよね。

稲葉 めちゃめちゃ身に付きますよね。アウトプットする人間が一番得していると思います。例えば、面白い本を読んで、これ面白かったなって心の中だけで思って終わるのと、本の感想共有会とか開催して、スライド5枚くらい用意して、心に残った5つを伝えますってアウトプットするのとでは、得られるものが全然違いますよね。オリラジの中田あっちゃんのYoutubeも、一番知識を財産にして得をしているのは視聴者ではなくてあっちゃん自身だと思います。めちゃくちゃ勉強して、わかりやすく説明するために情報整理して、感情表現豊かにアウトプットして、彼が一番美味しいですよね。人材育成コンサルの経験を経て、アウトプットしてどんどん表に出ていこうって思うようになりました。意見して笑われても全然いいって。

ー アウトプットというと、大二郎さんのブログも拝見したのですが、2020年はこれまでとはまた違った大きな変化の年でしたね。普通の人であれば隠しておきたいところをあえてオープンにしていてびっくりしました。

稲葉 人材育成コンサルの後、教育系のベンチャー企業に転職したんですが、2020年の8月に突如解雇されたことですね。社会人人生の中で、一番インパクトが強かったかもしれない。解雇直後は本当にこれからどうしようと悩み、精神的にも動揺しましたけど、今はポジティブに捉えられるようになりましたね。

ベンチャーに行く前は、メガバンクとデロイトで大きな組織の世界しか知らなかったけど、ベンチャーに行って自分のリアル、市場価値がわかったというか。自分のビジネス活動がより生々しくなる。この頃から定時とか土日の感覚も無くなって、オンとオフが溶け込んでいって、ベンチャーに行ってよかったなって思うことの一つですね。

ー すごくポジティブに捉えられていますよね。

稲葉 妻とずっとお世話になっている中高時代の先輩に支えてもらったのがまず大きいですね。テレワークでちょうど家で作業していた時に解雇の書面が届いたので、妻もその場にいて。もしひとり暮らしだったらどうなってただろうと思いますね。そして中高時代の先輩たちもみんな忙しいのに、「解雇記念やるぞ!」ってパーティーしてくれましたから(笑)。もちろんソーシャル保ちながらですけど。あとは、ちょうどその時、コラムを書くというアウトプットの場をいただいていたのも良いきっかけになりました。

ー コラムに解雇のことをオープンに書くってなかなかできないことだと思うんですが、どのような経緯だったんですか?

稲葉 元々は、教育ベンチャーの執行役員が、今の教育について思うことをコラムにするというオファーだったんですけど、そのWEBマガジンの編集長に「すみません、解雇になっちゃったのでコラム書けないです」って言ったら、編集長が「超ウケんじゃん!解雇コラムに変えようぜ、ダメ?」って(笑)。これが、吹っ切れたきっかけだったかなと思います。不当解雇だって言えたかもしれないけど、それをやる時間は、自分も相手にとってもめちゃくちゃ不幸だし、そもそもその会社に行くって決めたのは自分なわけで、その選択を否定することになってしまう。とは言え、最初からこんな風に思えていたわけではなく、妻や先輩、コラム執筆のおかげで前向きに考えられるようになりましたね。今は一つ個性を手に入れたくらいに思ってますから。究極のアウトプットは晒すことですね(笑)

ー コラムの1本目に解雇について書いて、面白い反響があったんですよね。それが今にどのように繋がっているんですか?

稲葉 コラムが公開されたら色んな人から連絡をいただいたんです。想像以上にポジティブに受け取られて、仕事のオファーとかいただけるようになって。「解雇になったんでしょ、ヒマなんでしょ」って(笑)。

ー 今のお仕事は、2020年の解雇をきっかけに広がっていったものですか?

稲葉 そうです、解雇パワーです(笑)。自分を晒して人と関わって仕事の話をいただくので、もう怖いものはないというか。本当に自分を受け入れてもらった感じがしますね。色々な選択肢をいただく中で、今、週の半分を捧げているのが、プロバスケットチームの運営をしている会社での人事と財務の仕事です。残りの時間で、企業向けの研修や、顧問として入らせてもらっている企業の仕事などをしています。

ー 縁がどんどん繋がっている感じですね。大二郎さんの引きつけ力がすごいなと思うのですが、ご自身の強みってどこだと思いますか?

稲葉 「出会い」を「出逢い」に変えられることですかね。それぞれの意味合いを調べてみると、「出会い」はただ誰かと誰かが会ったという事象をいう意味するだけで、「出逢う」は能動的に会うという意味らしいです。これ、人との出会い方について学生から質問を受けた時に教えてもらったんですけど(笑)。面白いなという人に出逢った時に、その場だけで終わらせずに、連絡先を交換するとか、どうしてもまた会いたければ来週どこかで会いたいですって言っちゃうとか。間隔が空いてしまうとまたぎこちないところから始まってしまうので、この人と絡みたいと思ったら1秒でも間隔は短く。明日空いてます?みたいな。「出会い」をしっかり「出逢い」にしていくことは学生の頃から意識しているような気がしますね。

ー ずっとナチュラルに種まきをされてきたのかもしれませんね。だから究極のことが起こってもご自身のキャリアに繋げていけてるんだなって思いました。

稲葉 お世話になっている恩人がたくさんいるので、すごく恵まれていると思いますね。

ー これからチャレンジしていきたいことってなんですか?

稲葉 今はスポーツと教育の領域に主に関わっているので、それぞれお話しすると、まずスポーツについては、スポーツやアスリートのあり方を変えたいと思ってます。スポーツは娯楽から始まっているので娯楽であり続けるのは苦労しないんですけど、その娯楽に命をかけるアスリートが報われない。アスリートというキャリアを選んだ人たちが長く活躍できる世界をビジネスの力で作っていきたいと考えてます。教育については、今、大二郎酒場でやっていることが大きいんですけど、教育現場で本気で子供たちのことを考えている人たちが報われる場を作りたい。教育の世界をより良くしていくのはいい大学に行かせるテクニックではなくて、子供たちのこととか、教育者としてどれだけ相手のことを考えてるかという想いの総量だと思っていて。でもこういう教育の変革者たちって、現実の現場だと、煙たがれがちで孤独なんですよね。教育を本気で変えていきたいという人たちと一緒に、何をやろうかと悪巧み中です(笑)。スポーツと教育と別々の領域のようですが、クロスする部分もたくさんあって。自分の働き方が学生や若い世代に、「こんな生き方もあるんだ」って一つの解になるといいなと思ってます。

ー これからキャリアを築いていく人たちに向けた言葉を最後にいただけますか?

稲葉 2つの軸を持っているとすごく人生やりやすいと思っていて。一つは「自分軸」。自分の軸を持っていることで自身で選択して楽しく納得したキャリアを歩むことができる。でも自分の都合ばかり考えていてもダメで「社会軸」も意識しておくべきです。社会のシステムを度外視してしまうと人生の選択肢が減ってしまうので。これって個人の話だけでなく、企業も同じで、ビジョンだけでやっていたらビジネスは長く続かない。でも経済とかビジネスの構造を理解して事業をするからこそ、成長していけるわけです。ついつい「自分は何をやりたいのか」という視点が強くなりがちですが、社会の視点も合わせて考えられると人生生きやすいと思います。

ー 大二郎さんのこれまでのキャリアを踏まえた、説得力のあるお話に圧倒されました。ありがとうございました。

 
<インタビューを終えて>
●大二郎さんはインタビューのご了承を頂く際もリスポンスがとても早く、どんなお話もオープンに話して下さいました。オープンでポジティブな雰囲気に、オンラインを感じさせない終始楽し気な雰囲気でインタビューをさせて頂きました。厳格な銀行というキャリアからスタートされ、その頃から積極的に勉強会を開く等、何かを創りあげるのが得意とされていた印象を受けました。また、解雇のお話においても、ご自身のきっかけを晒す事で周りを惹き付けている、元々人懐っこく、周りの声に素直な方だと感じました。自分を晒し、どんどんアウトプットしていく事は人を惹きつけながらキャリアに繋げるヒントが沢山盛り込まれているのではないでしょうか。「出逢い」についてや自分軸と社会軸のお話等、貴重な名言を拾わせて頂きました。大二郎さんらしく創り上げられていくこれからのキャリアにも、期待したいですね!元気と勇気の感じられるインタビューでした。この記事を読む読者の皆様にポジティブが届きますように。
(山添夏奈)

 

取材:山添夏奈
文 :小山あい
撮影:あさな