次世代にいい地球を繋ぎたい。「おいしい」「気持ちいい」で笑顔を生みだす“健やかでサスティナブルな暮らし”。

 

自家製天然酵母のパンの製造と販売、アウトドアイベント、自然に寄り添った野菜栽培、健康的なカラダ作りを提案するなど幅広い活動を行う「LifE」。自然が大好きで、みんなを笑顔にするのが得意な杉妻幸枝さんにお話を伺いました。葉山の海を目の前に焚き火を囲み、ご飯を食べながらのインタビューはとても豊かな時間でした。

(杉妻 幸枝さんプロフィール)
神奈川県葉山町在住。NPO法人スタッフとして茅ヶ崎市営キャンプ場の運営に携わった後、2018年8月31日(831=やさいの日)に「LifE」を太田千恵さんと共に立ち上げる。
「健やかでサスティナブルな暮らし」をコンセプトに、誰もが親しみやすく、日常に取り入れやすいコンテンツを通し提案し続けている。

(聞き手)

  • 柴田真季/夫・息子と茅ヶ崎に暮らす会社員。団地再生にともなうエリアマネジメントをミッションとしたNPO団体で、主に企画・ディレクションを担当。現在は神奈川県西部のUR団地でコミュニティ形成にまつわる業務を担当。


ー LifEという名前で活動を始めて今年で3年目になりますね。どんな想いで立ち上げた活動だったのでしょうか。

杉妻 LifEは、私と太田(以後、千恵と呼称)の2人で活動をスタートさせました。千恵は管理栄養士として「野菜を食べましょう!」と伝えていく中で、今の野菜の栄養価はどうなんだろうと疑問を持ち始めていました。千恵の中で本物の野菜への追求が始まった瞬間でした。

杉妻幸枝さん(左)、太田千恵さん(右)

私はもともと野菜が大好きで、茅ヶ崎市の農業研修講座に1年間通ったこともあったんです。2人とも自然が好きで「自然に寄り添った形で野菜が作れたら最高だね」と話していて、LifEというユニットをスタートさせました。

ー 食べることを軸においた、自然なスタートだったのですね。

杉妻 大地に寝っ転がったり、土に触れたりすることって気持ちいいですよね。野菜が小さくても虫食いでも、できることが嬉しくて、その野菜からたくさんの種が採れるコトはさらに驚きで。そんなコトを「みんなとシェアしたい!」と思いました。

ー 具体的にどんな活動をされているんですか。

杉妻 LifEでは「健やかでサスティナブルな暮らしの提案」を届けるために、3つのプロジェクトを行っています。

1つ目は、earthなないろファクトリー。「『おいしい』はみんなを笑顔にする。人にとっても、地球にとってもやさしい暮らし。」をコンセプトに、自家製天然酵母のパンや焼き菓子の販売、乾物の量り売りをしています。

2つ目は、旅豆TaBeans。「自然との関りによる自己の幸福度」をテーマに、四季を通じてアウトドアイベントや講座の開催など、オーダーメイドでのプランニングを実施しています。

3つ目は、Chiers。管理栄養士の千恵が主催で行っています。管理栄養士による食事指導とパーソナルトレーナーによる運動指導でカラダを整え、デザインするプログラムです。詳しくは本人に聞いてください!(笑)

ー earthなないろファクトリーは、ポップアップの出店も増えていますよね。どれぐらいのペースで出店されているんですか?

杉妻 毎週水曜日(第1水曜を除く)は恒例で、葉山の一色海岸にあるカフェKUBU Suriaでドーナツの販売をさせていただいています。ばらつきがあるんですけど、月に10回ぐらいですね。

ー 「自分の想いを届けたい」「こんな風に世界が変わったらいいな」と考えている人は多いけれど、カタチにするには悩む部分も多いかと思います。杉妻さんの具体的なアクションのひとつ、earthなないろファクトリーを始めたきっかけはありますか。

杉妻 「おいしいをつなぐ」という想いで、5人で「なないろファクトリー」を始めました。メンバーのひとりが農家さんだったこともあり、使われていなかった納屋の2階を片付けて、みんなで砂壁をはがしたりペンキを塗ったり、友人の大工さんの力を借りてパンやお菓子を作る工房を作りました。

初めてのことばかりでとても楽しく、ワクワクしましたね。昔からパンを焼くのが上手だった千恵に「パン焼いたらいいよ!」なんて言った軽い会話から始まったのですが、千恵が「皆さんに買っていただくのだから自家製天然酵母から育てよう」と話が弾んだのがチャレンジの始まりで。最初は愛嬌たっぷりのパンが焼けたり(笑)。

ほどなくして、「おいしいをつなぐ」という想いの輪を広げたいというのと、私と千恵は葉山へ引っ越したこともあり、自分たちの街で根をはった活動をしたいという想いで葉山を拠点に「earthなないろファクトリー」をスタートさせました。

栄養や材料を「選ぶ」ということ、環境のことを「少し考えてみる」こと。それらを伝えるコンテンツとしてパンを選びました。「次世代に少しでも良い地球を繋げたい!」そんな想いをパンにのせて、お母さんがこども達に食べさせたくて焼くような、安心して食べられるパンを焼いています。

みんなに応援してもらって、見守ってもらって。毎回買ってくださるお客さんが気にかけてくれたりして、それでようやく今この形ができました。

ー なるほど。今日のパンも本当にいい香り。しっかりと麦の味がして、生きているな、って感じが伝わってきます。

杉妻 私たちの活動を通して、パンを手作りして食べてみる人が増えたらいいなと思います。自分たちで安心して食べられるものを手作りする人が増えたら、なんて豊かなんだろうって。

私たち自身も、最初は何も知らなかったけれど、果物から自家製天然酵母を起こして、それを使ってこねたパンが膨らんでいく姿や焼けた時の香りに感動してワクワクが止まりませんでした。そんな工程や香りを皆さんにも楽しんでもらえたら嬉しいですし、家族でパンを手作りすることは立派なコミュニケーションツールのひとつになるんじゃないかと思っています!
そんな想いがあって、ECサイト「おうちで手作りセット」の販売を準備しています。

ー 「楽しい」や「おいしい」は、年齢や性別も関係なく、誰もが楽しめる最高のツールですね。

杉妻 「面白そう」とか「楽しそう」とか、「みんなでやったら良さそう」みたいなことを思いついちゃったら、やらずにいられないタイプですね。ひらめいちゃったらもう最後(笑)。

ー 以前、キャンプの企画に参加させてもらった時に、みんなが杉妻さんのことをとても大切に想っていて、杉妻さんもみんなのことを大切に想っていて。お互いの会話や動作のひとつひとつが温かいなぁと思いました。人と人が繋がっている感覚ってどこから来てるんでしょうか。

杉妻 1人でやるより、みんなでやった方が楽しいと感じることが多くて。旅好きだけど1人旅は好きじゃないタイプというか。1人旅の経験もありますが、旅の途中で食べたものを「おいしいね」って共感し合ったり、色んな感情をシェアしていきたいんです。寂しがり屋なのかな(笑)。
みんなと繋がりたいし、みんなで笑顔になりたいといつも思っていますね。

ー それはとても大切な感性だと思います。プロジェクトや企画の過程も楽しむことができそう。

杉妻 本当に周りの方に恵まれていると思います。色々な方とのご縁で繋がることができて、皆さんに助けていただいて今があるというか。その繋がりがあってこそ進むことができて、形にできているんじゃないかなぁ。

プロジェクトって過程が一番楽しいと思います。企画中もみんなの笑顔が頭に浮かんできて、「あんなことしたら喜んでもらえるかな、楽しいかな」と思うと、私自身もワクワクしちゃいます!

ー 今、環境問題やSDGsの話題があって、循環型社会が課題になっていますよね。杉妻さんが手繰り寄せた「食べること」や「外で遊ぶこと」というコンテンツを使って、具体的に循環させるものを思いつくってすごいことです。しかも生みの苦しみがない。

杉妻 苦しみ的なものがあった方がちょっとかっこいいかもしれない(笑)。ご縁と自然な流れと、面白そうっていう気持ちで進んできた感じです。

ー だからみんな自然体なんでしょうね。杉妻さんのやることに乗っかったら、楽しくできそうだなみたいな。

杉妻 そう思ってもらえたらすごく嬉しい。

ー 毎日の暮らしを100%変えなくても、LifEの活動に触れた時に「サスティナブルな暮らし」について考える人が1人から10人になったり、100人になったらいいですよね。

杉妻 そうですね。1人の大きな一歩より100人の小さな一歩の方が、前に進めます。みんなで「なんか気持ちいいね」みたいな暮らしに自然となったら、一番いいと思います。
〇〇しなきゃいけないみたいなのはあまり好きではなくて、こっちの方が気持ちいいから選んでるでいいんじゃないかな。

ー そうですね。コロナウイルスの流行がきっかけで、LifEの活動の中で考え方がシフトチェンジしたとか、変化があったことはありますか。

杉妻 緊急事態宣言が出てステイホームになった時に、少し時間ができたんです。LifEの活動の仕方や、自分たちの暮らし方を振り返る時間がとれました。

葉山に引っ越してきて3年目になりますが、葉山で暮らしていることをより実感するようになったのは、今思い返すとこの頃からだったのかなと思います。コロナ禍でよりココロもカラダも元気でいることの大切さや、笑って暮らせる幸せ感、当たり前だと思っていたことも突然かけがえのない大切なものになるということを感じました。今だからこそ、伝えたい、シェアしたいという想いが強くなりました。

みんなに応援してもらって、見守ってもらって。毎回買ってくださるお客様が気にかけてくれたりして、それでようやく今この形ができました。

ー earthなないろファクトリーの変化はありましたか。

杉妻 earthなないろファクトリーとしては、コロナ禍の2020年6月からのスタートとなりました。「健康でいることの大切さ」や「ホッと笑顔になれること」をお届けしたくて、できるだけの対策をとりながらパンやお菓子をお届けしたいと思いました。

自家製天然酵母のパンに加え、オーガニックの材料など素材にこだわったクッキー、私たちがパンやお菓子に使っているドライフルーツやナッツ、それに隠岐島の乾物の量り売りを始めました。

オーガニックのものって高いイメージがあったり、実際高かったりしますが、大きなロットで仕入れることで少し安く買えるので、おいしくてカラダにいいものをみんなでシェアすることで継続して食べることができたらいいなぁという想いで量り売りをしています。
「おいしいものって笑顔になれる!」そう思って活動しています。

ー ネガティブではなくポジティブな変化ですね。

杉妻 コロナ禍でもできることは絶対あるはずだし、こんな状況だからこそ少しでもお客さんが笑顔になれたり、気持ちが落ち着く時間ができたら嬉しいなと思います。

あとは、なないろファクトリー時代から人気だったドーナツを、earthなないろファクトリーでも開始しました。ドーナツって、ちびっこからご年配の方まで食べられて、なんだか笑顔になっちゃいますよね!

コロナ禍で気付かないうちに不安やストレスを溜めちゃっている方が多いと聞き、こんな時こそドーナツでホッと笑顔になる時間をお届けできたらなぁと。

休むという選択もあっただろうけど、できる限り対策を取りながらパンやお菓子を届けたいと思いました。

ー 旅豆TaBeansの活動の方はどうですか。

杉妻 旅豆TaBeansは2020年7月に改めてスタートしました。「自然との関わりによる自己の幸福度」をテーマに、四季を通じてイベントを企画して行っています。地球と自然と人間の関わり方をキーワードに、自然の中に身を置き、カラダの内面に再び力がみなぎることを感じていただける体験を企画しています。

自然の中に居ると、知らないうちにリラックスできたり、ストレスが発散できたり、すごい気持ちよかったりしますよね。今だからこそ余計にそういう時間って必要なんだろうなと感じますし、人と自然との関わりによって生まれる幸福度ってあると思うんです。

キャンプ場で働いていた経験やご縁も活かしながら、精進料理姉妹ユニットioriさんと、葉山のカフェKUBU Suriaさんとのコラボイベント「葉山時間を過ごす 精進の一日」や、葉山で活動中のSYNERGIZEさんとの「トレランとごはん」など、いろいろなスペシャリストの方とのイベントは私自身ワクワクします。興味のあるイベントに参加いただくことで、参加者の方が自然の中に踏み出すきっかけになればと思います。自然の中へ踏み出すハードルを下げ、多くの方に自然の中で過ごすことの気持ちよさや自然との関わりによって生まれる幸福感を感じていただけたら嬉しい。

今みたいに、海を見てちょっと焚き火しながら過ごすだけでも気持ちいいじゃないですか。

「トレランと昼ごはん」

ー 青空の下でご飯を食べることで、こんなに豊かな気持ちになれる。11月に開催された葉山星山のキャンプでは、久しぶりに友人と再会したり、星空の下で一晩を過ごすことで、参加した方が特別な一日を過ごされたのではと思います。

杉妻 今までは人とリアルに接することが当たり前でしたよね。一緒にキャンプをしたり、ご飯食べたりっていうのが当たり前だったけど、いきなり当たり前じゃなくなって。

みんながそのことに気づいてから開催したキャンプだったということもあって、人と会うってこんなにエネルギーをもらえるんだとか、会うだけで元気になれるっていうのを、みなさんもとても実感できたのではと思います。星山の中で、自然からも人からもエネルギーをもらった最高のキャンプになりました!
人と会うってやっぱりいいよね。シンプルに、そう思う。

星空の下「食×農×気候変動」セミナー開催

ー そうですね。オンラインで液晶に話しかけるのと、同じ空気を吸って、同じ空間で話すのとではやっぱり違いますね。

杉妻 本当にそう。緊急事態宣言があけて、久しぶりにパンを届けに行った時に、友人と会えたことが「なんだこれ!」って感覚で、すごく嬉しくて泣きそうになっちゃったもんね。

ー 本当に私もそう思いました。そして、コロナだからネガティブに捉えるのではなく、あるがままを受け入れて、この状態で一番居心地がいいと思うことを考えていくのが自然な形なのかなと思うんです。

杉妻 そうですね。それはそれで受け入れて、その中でもできる楽しいことを考えるのがいいのかな。

ー 杉妻さんは、どこかに所属したり何かに固執をするわけじゃなくて、人生を自分でオールを漕いでいる感じがするんですよね。自分の中にある羅針盤とオールだけで漕いでいく時に怖さを感じることはありませんか。

杉妻 それが全くないんです(笑)。と言うのも、いつも周りの方に支えられてて、それが自信になっているからだと思います。私はビビリだし、寂しがり屋なんですけど。こどもの頃の「明日遠足だ!」みたいな感覚に近いかもしれません。楽しすぎて、そこしか見えないというか。

ー 目的の島がはっきりと見えてる感じでしょうか。「次はあの島に行ってみよう」という感覚なのかな。

杉妻 そうですね、結構ちっちゃい島がポツポツ見えてる感じです。「これをやったら、みんなであの島に行けて、楽しそうだな。」「こっちの島はみんなで何かおいしいものを食べられそう」とか。

途中で「やばい!」「助けてー」って時もあるけど、いつも誰かが助けてくれて。1人では目的地の島には行けなくて、船にはいつもみんなが乗っている。応援していただいて、助けていただいて。だからこそ島に着いたらみんなで最高に楽しいことがしたいと思って、次の島、次の島と旅を続けられる。

ー すごいですよね。私は島が見えていなかった時期もあったので、杉妻さんみたいに海に出ていく人の気持ちってどんな感じなのかなと思って聞いてみました。

杉妻 今は2人でやってるから心強いんだと思います。千恵と一緒にやってるLifEだから、お互い違う良さがあって、だからこそ力になれるというか。

1+1が2じゃなくて、3にも4にもなれていることがいっぱいあるんです。

ー LifEという幹があって、その枝がまだ全然別のコンテンツのところに伸びていく可能性もありそうですね。

杉妻 あると思います。今はやりたいことができているので、思い浮かびませんが。未知ですね。先のことがわからないことが不安なんじゃなくて、わからないからこそ楽しみです。未知ってワクワクしちゃう。

今はLifEという活動の中で、畑もやれていて、earthなないろファクトリーでパンやドーナツを皆さんにお届けすることができて、旅豆TaBeansで自然の中で過ごせて。千恵は食事と運動で健康をサポートしていて、「次世代に少しでも良い地球を繋げたい」という想いを形にして活動できているかなと思っています。

いつも千恵と話してるんですよ。「幸せだねぇ」って!(笑)でも、それってやっぱり関わってくださってる皆さんのおかげだと思うんです。本当に感謝してます!

【関連情報】earthなないろファクトリー
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<マイレジェンドから学んだこと>
インタビューの後。
●「杉妻さんにとってのロールモデルは?」という質問に、「小学校頃は病弱で。茅ヶ崎に引っ越してきて家族で海や山へ行くことが多くなり、身近な自然の中で沢山の時間を過ごすようになりました。自然が好きなのは、そうした時間を過ごさせてくれた父のおかげかなぁって今になって気付いた」と話してくれた杉妻さん。
そして「いつも何かを始める時、決める時は〝迷った時はGO!″といって育ててくれた母かな。何かやりたいことがあったらやらずにはいられないのは、きっとそこからきているんだと思う(笑)ロールモデルは誰?って改めて考えると両親かな」と教えてくれました。ああ、だから杉妻さんの言葉や行動には愛情があふれているんだな、とストーリーが繋がった瞬間でした。
(柴田真季)

 

取材:柴田真季
文 :浪岡直美
撮影:岩井田優