人も農作物も「Be organic」。 自然と調和し、自分とも調和し、自分らしく素っ裸で生きる。 世界がつながって、楽しくするために「農と食」からチャレンジ① ~「有機野菜を学ぶ会」参加レポート

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7月、湘南・平塚にあるSAF(サステナブル・アグリカルチャー・ファーム)にて、湘南オーガニック協議会主催の「有機農業を学ぶ会」が実施されました。SAFは株式会社いかすが運営し、有機農業を行っている農場です。「湘南をオーガーニックタウンにするために、地産地消で作物を作る農家さん、それを食べる人たちを増やすこと実現したいと思って活動しています」と語る、案内人の内田達也さん。有機農業の現状や、栽培について、そして2019年9月から開始されるサステナブル・アグリカルチャー・スクール(※)についてなど、内田さんのお話を中心に当日のレポートをお届けします。

※8月25日が説明会最終日  https://www.icas.jp.net/farm/

(プロフィール)

湘南オーガニック協議会/
オーガニックタウン化構想を湘南地域で推進。「暮らしやすい・働きやすい・学びやすい街」づくりを市民参加型で実現を目指す。地域での地産地消・オーガニック率5%を目標に、生産・流通・消費の課題を解決する試みを試行錯誤中。団体・個人が参加して協力しながら日々チャレンジしている。

株式会社いかす(白土卓志さん・内田達也さん)/
「be organic」をテーマに、世界がもっと、つながって、もっと、楽しくなることを、みんなに⼤切な「農と⾷」からアプローチしている。外苑前レストランicas storia、たんじゅん野菜の宅配、有機野菜の宅配、伊勢丹でも大人気湯煎10分のフルコース加工食品、サステナブル・アグリカルチャー・スクールなどの事業を行う。

甘くておいしいのに、虫に食われない有機野菜を作る

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こんにちは。湘南オーガニック協議会の内田と申します。

普段は株式会社いかすでSAF(サステナブル・アグリカチャー・ファーム)の運営をしています。「持続可能な農業をやるための農場」として最近名前を変更しました。

この協議会では湘南をオーガーニックタウンにするために、地産地消で作物を作る農家さん、それを食べる人たちを増やすこと実現したいと思って活動しています。有機農業をしている農家は実は0.5%しかいなくて、99.5%は慣行農業と言われていますが、当社では実際に、有機JAS認証も取得している畑で、栄養価の高いお野菜ができています。

今日の「有機農業を学ぶ会」はそんな畑で、農業をされている方を中心にみなさんでワイワイ、畑論議ができればと思っています。

まずこのSAFについてですが、実はここは5~7年ほど放置された耕作放棄地の開墾からスタートしています。約1町歩(約10,000㎡=1ha)。ここで土壌づくりを終えた後、玉ねぎの作付けを行いました。

初年度は1反(約1,000㎡=10a)当り4トンの収穫。今では6トンまで増えています。

神奈川県の平均が1.5トン、全国の平均が4トンですから、慣行栽培の収量のなんと1.5倍を2年目で達成しています。

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他の成果としてキャベツを例に出しますと、オーガニックエコフェスタ2019の栄養価コンテストのノミネート受賞に至りました。

分析結果としては、キャベツの平均値と比較すると糖度が1.7倍、抗酸化力(老化防止)2.7倍、ビタミンC2.3倍といずれも非常に高い値になりました。また硝酸イオン含量(窒素代謝)は平均の0.2倍程度でした。

つまり、食味は甘みが強く青味は控えめで、噛めば噛むほどに旨味がじわじわと感じられるという評価でした。そして硝酸イオン(窒素)が少ないというのは、虫に食われにくいキャベツであるということです。窒素が多い有機キャベツは見事に虫に食われてしまいます。これを防ぐには農薬をかけるという方法もありますが、当社では窒素分をコントールして、やせすぎでも太りすぎでもないキャベツを作り、人間が好み、虫は好まないちょうどよいバランスを実現できています。これがすごいのは、耕作放棄から1年ちょっとでこんな野菜ができちゃっている、ということなんです。

このような状態をつくるための取り組みについて今日はお話させていただきます。

有機農業の分類とSAF(サステナブルアグリカルチャーファーム)の特徴

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こちらの上段をご覧ください。

丸が沢山書いてありますが、オーガニック農法を私が勝手に分類した図になります。オーガニックってよく聞きますが、先ほどお伝えした通り農業全体の0.5%しかありません。さらにその0.5%の中に色々な農法があります。

SAF(サステナブルアグリカルチャーファーム)では、SAS(サステナブルアグリカルチャースクール)という農業学校もやっていて、我々が教えている農法はこの図の上半分全体(積極的に関わりが多い×無肥料・肥料多)になります。

私は全部の農法を試したことがあるので、だいたい位置づけは間違っていないとは思います。色々な農法をやって思うのは、環境にやさしいからといって、環境だけの持続可能性だけを追求すると経営的な持続可能性が成り立たないということも多いということです。

左下の自然農法や自然農は道具をほぼ使わず、鎌だけだったりします。肥料もほぼ投入しません。左上の炭素循環農法は炭素資材を投入して土量を活性化して作るという人為的要素が強まります。今、自然農法と言われていて、経営的にも成り立っているのは上真ん中にある岡田茂吉氏が提唱した自然農法と言われているものです。

SASは肥料を使わないことにこだわっているわけではありません。その現場の土にあわせて、SAS卒業生が新規就農した場所の土に合わせてその場で農法を組み合わせて臨機応変にできるようにする。フリーハンドで色々な技術をもっていたほうが、何かの農法に縛られることなく再現性の高い農業ができるのではないかと思って教えています。

経営的な持続可能性と環境の持続可能性の両方を実現できる農業をしていきたいと思って今も模索をしているところです。

栽培とはその土地の地力を見極めることから始まる

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下の図を見てください。(作物栽培の全体像について)

こちらは私の師匠・石綿薫さんから教えてもらったことです。

まず作物というのは葉で光合成をします。そこで得られる代謝産物(栄養分)のうち10~30%を根からアミノ酸を自ら放出をして土壌生態系(微生物や小動物)を活性化させています。つまり、作物は周囲に対して栄養分をあげる動きをしていきます。

土壌生態系を活性化させることで、逆に土壌生態系は作物に養分供給をしてくれるというエネルギー循環をしているのです。まず自分が与えるのです。植物自体が自分のここが痩せているなと思うと、自分の身を切り崩してでもアミノ酸を放出して、このサイクルを回していくことをしていきます。自分の好きな生態系を根の周りに作り出す作用があるのです。

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それを踏まえて我々が何をしているのかを、玉ねぎ作付けを例にしてお話をします。

まず土壌生態系のポテンシャルを高めるために、枝チップ8トンや堆肥原料(コーヒーかすやお茶殻など)4トンを土に投入して、発酵処理を行いました。

1か月くらい発酵期間をおくと、はじめ、放線菌という白い菌がたくさんでます。そこから糸状菌というキノコ菌が増えてきます。そうするとトビムシ・ヒメミミズといったいわゆる森の中にいるような生態系のものが一気に増えてきます。その状態で生物性・物理性が高い状態にしたうえでその後アフリカ原産のソルゴー(茎や葉を飼料としたり、茎からシロップを製造するモロコシの一群)を作って、すき込んで発酵処理をします。その状態で土地の科学性をはかります。そうすると酸性が強いことがわかりました。土壌を弱酸性にするために、アルカリ性の苦土石灰をいれてたまねぎを作付けしました。

そもそも作物というのは弱酸性のところが好きなんです。土壌の主要なミネラルというのが溶け出してくるところ、マグネシウム、カルシウム、ホウ素、鉄、マンガンみたいなものは全部弱酸性が一番溶け出してくる割合が多いんです。ちょっとでも酸性でもアルカリ性に傾くと溶け出し方が減ってしまいます。肥料投入するのではなく、一番いいのはその場にあるものを利用することが大切ですよね。その場にあるものを利用するために、意図的に弱酸性のPH 6.0~6.5に調整することで、植物はそこにあるものが吸える状態になる。そういう風にして化学性を整えます。いわゆる合気道みたいなものですよね。相手の力を利用するということです。

Mr. Uchida's farm class

つまり「栽培」とは、作物と土壌の生態系の全体を俯瞰した目線でどこが足りないのか、その土壌の生物性・物理性・化学性の観点からサポートする流れを創り出すことをといいます。

資材の何を使うとか、緑肥を使うとか、栽培技術とかはあくまでもその一つの技法にすぎません。実は土壌生成の歴史を知ることのほうがはるかに大事です。

ずっと先祖から農作業に使ってきた土地なのか、もともと山だったところなのか、戦後土壌改良された土地なのか。圃場になるまでの歴史がどうだったのかを知ることは大事です。1メートル下には縄文時代の土の影響があったりします。その土地になるために何万年の歴史があるのに、ここで自然栽培したいと決めつけてもそこに蓄積がなければ無理です。農法がすべてではない。その土地がどう形成されてきたかを知り、その土地にふさわしい方法を選ぶということが我々が出来ることだと思っています。その土地の数だけ農法はあると思っていたほうが自然なのではないかと思っています。

現代では化学肥料の多投、連投による土壌劣化が残念ながら進んできてしまっています。そうではないやり方で農業を発展させられたらと思っています。

・・・まだまだ内田さんの談義は続きましたが、農業素人でもわかる部分を抜粋しました。

Mr. Uchida's training at a workshop on a farm

次回は今に至るまでのお2人の過去、人生観、そして2019年9月からスタートするサステナブル・アグリカルチャー・スクール立ち上げの秘話についても伺いました。

(8月25日が説明会最終日)https://www.icas.jp.net/farm/

ご期待ください。

 

インタビュー:山口 順平
写真:安藤アン誠起
編集:もりおか ゆか