困っていること?思い当たらないなぁ。何でも何とかなるからね。全てのモノ・コトが生き方を学ばせてくれるの。

okamoto-san photo 

茅ヶ崎の里山にある「湘南ヤギの里」を知っていますか?
今回取材させていただいたのは、ご主人やスタッフとともにヤギによる除草事業を中心に 持続可能な社会の実現に取り組んでいらっしゃる岡本悦子さん。子どもも大人も、ハンデのある人もない人も、日本人も外国の人も、人だけじゃなく動物や植物やモノも、いろいろ集まって一緒に歩いていくことで生き方が学べるのーー目をキラキラさせてそうお話くださった悦子さんのたおやかな生き方に迫ります

(岡本悦子さんプロフィール)
現在72歳。山形出身で結婚されて茅ヶ崎に。農業経験はなかったがご主人の養豚を手伝い、やまゆりポ―ク(神奈川県の銘柄豚)の生産に携わっていた。5年ほど前に養豚は廃業し、その後、養豚で培った畜産技術を活かして「湘南ヤギの里」を発足した。

 

ーこんにちは、本日はよろしくお願いします。早速ですが、ここヤギの里はいつ頃から活動されているのですか?

悦子 そうねぇ、まだ3年?4年目くらいかしら。運営は主人や他の方がやってくれて、私は現場で障害を持った方とかと一緒にヤギの世話をしたりしているの。だから、いつだったかなぁ。

ー始めたきっかけはどのようなことだったのですか?

悦子 元々十数年前からうちの草を食べてもらう目的でヤギを一頭飼っていたんだけど、大辻の方から飼えなくなったヤギを貰ってくれないかって話をもらって二頭増えて、その後もヤギを扱っている会社から具合の悪いヤギを預かってほしいと頼まれたりして、どんどん増えていった感じで。はははは…。

goat hut


ー具合の悪いヤギを預かったのですか?

悦子 う〜ん、普通は具合の悪いヤギは廃棄処分にされるんだけど、私たちはヤギでも他の動物でも、一緒に歩いていくものだと考えているので見捨てられなかったんですよね。生き物はいずれ死を迎えるけど、その時「ここに暮らせて良かった」って思ってもらえる付き合いをしたいんだよね。

goat face photo

chicken photo

ー動物たちは人間と一緒に歩いていくもの!ニワトリもその頃から?

悦子 ニワトリは廃業した鶏舎から預かったり、いろいろ。「行き場所を失くした動物たちはここにおいでよ、一緒に暮らそうよ」っていう感じで…。犬もそんな感じで一番多い時で11頭いたことがあったな。

ー11頭ですか!

悦子 みんな保健所に行かなきゃいけないとかで、「じゃあみんなここで暮らせばいい」って。犬の世界からもいろんなことを学ばせてもらって本当に面白かったですね。11頭のリーダーを決めなくちゃならなかったんだけど、どの子もそれぞれ事情があってもらわれてきた子たちだから、「この子強そうだから」ではリーダーに出来なかった。人間に裏切られてきた子からは信頼してもらえなくて、土壇場で逃げ出されてしまったりもして…。

結局、一番体が小さい子をリーダーにしたんだけど、「キミがリーダーなんだよ!リーダーになってもらいたいんだよ!リーダーは我慢しなくちゃならないこともあるし大変なんだよ!」って、こっちも必死に人間の言葉で言い続けたの。そしたら、通じるんだよねぇ。みんなで散歩に行くんだけど、途中ではぐれた体の大きなハスキー犬が遅くに戻ってきたとき、体の小さなリーダー犬がハスキー犬に向かって怒ってるの。ハスキー犬はしょんぼりしてて、そんなの見てると不思議だなぁって。

ーへぇ!信頼関係とか言いつづけることの大切さとか、いろんな学びがありますね。他にも猫ちゃんもいましたね。

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悦子
 猫も何匹かいます。ロバもいますね。

ーロバもいるんですか!

悦子 ロバは2頭います。1頭は随分前からいて、いろんなイベントに連れていくと人気者なの。でも歳をとってしまって「連れていくのはもうやめたほうがいい」と獣医さんに言われて。それでもう1頭を購入することになったんだけど、ロバって高価なのよ…。

ーロバ売っているんですね!

悦子 千葉のほうで売っているんだけど、「性格の悪い子は安いよ」って言われて。「どう悪いの?」って聞いたら「人を見る」って。

ーははは、賢い⁈

悦子 そう、賢いってことだよね。だからその子を買うことにしたの。これが乱暴者で頑固でね(笑)。

ーヤギは草を食べたりするお仕事をしていますね。ロバさんは?

悦子 ロバもヤギほどではないけど草を食べたりするの。でも、何より、いろんなイベントに連れていくと、みんながすごく喜んでくれるから。うちはやっていないけれど、他では花やアイスクリームを売ったりするところに連れて行ったりする人もいるようで、要は客寄せパンダの役割が大きいのかな。今はすっごくおとなしくなってね。年取ったほうのロバは“デニーロ”で、今のロバは“鯛之助”って名付けたの。“めでたい”の鯛(笑)。

ー勇壮な名前!ヤギさんも名前が付いているのですか?

悦子 みんなに名前を付けているのよ。スタッフの子が付けてくれるの。その子はね、小学校から登校拒否でずっと外に出られなかったの。それで、その子にずっと関わっていた方が、「ここに連れてきたい」と思い続けていて、10年掛かってやっと外に出られるようになったときにここに来て。それから5年経つのだけど、ずいぶんいろいろな仕事が出来るようになったわ。今は結婚して小田原に住んでいて、そこから週2回通っています。

ヤギの里で生きていくといろいろな経験をするのよ。生や死にも向き合うし、いろいろな人との出会いもあるし。生き方が学べるの。「こうすればよかった」とか「どうすればいいか」とか、何も言わなくても自分で考えるようになるのね。それが自分の考え方や生き方に還っていく。

goat photo

goat in the cage photo

two goats

ー生き方を学べるのですね!

悦子 私自身、動物やその子やここを訪れるいろいろな人との出会いでたくさん学んでいるの。

ー出会いってすごいですね。今回縁あって取材をお願いしたのですが、悦子さんの考える“人生100年をどう生きるか”というテーマにはどのような思いがありますか?

悦子 100歳まで生きられるかわからないけど、「この場所をみんなに使ってもらいたい。ここから世界に向けて平和の発信をしたい」そんな思いでここを作ってきたの。

未来ある子どもたちに使ってもらいたい。いろんな経験をして心が豊かでないといろんなことに立ち向かっていくのは難しいと思うんですよね。お互いぶつかり合ってばかりではいて欲しくない。戦争とか起きて欲しくない。私、戦争で辛い思いをしている海外の子どもたちをたくさん見てきたんですよね。難民キャンプに連れて行ってもらったりとか。

interview place


ー難民キャンプに行かれた経験があるのですか!

悦子 チベットの子どもたちがヒマラヤを超えて亡命してくるんですよね。中国はチベットの素晴らしい文化を消そうとしているようで…。チベットの親たちは、「国は消してもかまわないけど文化は子どもたちに伝えたい」と思っていて、ここに居たら文化を伝えられなくなるから、と亡命させる。ヒマラヤを超えるのは命がけだということを親は承知で出すんです。亡命出来る子は10人中3人くらい。そのくらい過酷で、亡命出来た子も手足が凍傷になってたり…。親に手紙を出すことも連絡を取ることも出来ないので、親たちは自分の子が無事亡命出来たかどうか確認することもできない…。そんな子どもたちを見てきました。

ーはぁ…。そこへは何をキッカケに行かれたんですか?

悦子 私の今の思いの原点になるんですが…。以前、井脇ノブ子さんが主催されていた「少年の船」というプログラムに、当時小学生だった娘を参加させたことがあるんです。本人の希望もあって、娘にとっていい経験をさせてあげられれば、って。300人くらい参加者がいたのかな。船一艘チャーターしての開催でしたね。

旅から帰ってきた娘の言動や考えを聞いて自分も乗ってみたいと思い、娘が中3で船を卒業した後、私も乗せて欲しいとお願いして、子どもたちの世話をするということで何年か乗せてもらったんです。

そこでいろんな勉強をさせてもらった。障害を持った方との出会いもありました。「障害を持った方の力ってすごいなぁ!これほどまでにみんなの力を寄せ集めるんだぁ」って。障害を持った方への見方も変わったし、子どもたちの力は無限だということを目の前で見せてもらって。子どもたちの無限大の力は、それを引き出せる大人がいないとみんな見過ごされてしまう。タイの難民キャンプにも行きましたね…。

(ここで猫ちゃんが近寄ってくる)

悦子 ここでは動物も人間も役割を持って共存しているんです。

ー今、悦子さんが困っていることとかありますか?

悦子 困っていること…思い当たらないですね。何でもなんとかなっちゃうからねー。なんとかなっちゃうんですよ(笑)。

ー素敵ですね! 思い描いている夢とかありますか?

悦子 ここで子どもたちを育てながら、周りにはお年寄りがいて、お年寄りの知恵を借りながら、子どもたちにどんどん伝えていきたいと思っています。

今のお年寄りの方の中には、「早くお迎えが来ないかなぁ」とか悲しいことを言う方も多いではないですか。そんな思いをさせたくないな。昔取った杵柄(きねづか)でやれることをここでやってもらいたい。そしてそれを、子供たちに伝えてもらいたい。子どもたちを中心に、お年寄りも居て、障害を持った方も居て、もちろん私たちも居て…そこで子供たちを育てる。ここをそんな場所にしていきたいとずっと思ってきました。

okamoto-san answering at the interview


ー私(菊池)も同じような思いを持っているので、お話を聞かせていただいて興味津々です。

悦子 中学生の体験学習でもここを使ってもらったりするのですが、机上の勉強は早々に終わらせちゃうんです。それで、カレー作り体験としてまず森の中に入って薪を拾ってきてもらい、それでご飯を炊いたりカレーを作ったり。

「薪は重ねることで火が付く。人も手を取り合うことで燃えるんだよ」「空気を入れるとよく燃える。人の間にも空気を通すことは大事だよ」そんな風に、すべて人生や生き方につながることを体験してもらったりします。子どもたちを迎えて向き合うと普段の3倍の体力を使うけど、そのくらい真剣に向き合わないと子どもたちの良さは引き出せないと思っているの。苦労は見せませんけどね。

今の子どもたちは画面の中とか本の中でしか知ることができないことも多いけど、実際に触って感じることもとても大事だと思うんです。触って感じると子どもなりの想像力が養われるし考える時間も増えるかと。ここにきたばかりのときは何もできない子どもたちが、自分たちで考えていろんなもので遊び始める。子どもの本質は、今も昔も変わらないんですよ。

ー体力を保つ秘訣などはありますか?

悦子 ヤギのミルクは体力維持にとてもいいです。子が生まれると遠慮しますが、体力が落ちてきたと感じたら飲みたくなります(笑)。

ーそういえばインタビューさせていただいているこの建物は、天井が高くて広いですね!

悦子 知人の一級建築士の人に作ってもらったんです。釘を使ってなくて木を組み立てているの。

okamoto-san's house


ー木がとても美しいですね!高いところのガラス窓も一枚が大きいですねー!

悦子 外せないし高い場所だから掃除が出来ないんだけどね。多くの人が集まって出来た場所なの。

ーいろんなものが所狭しと並んでいますね。(楽器やレトロな雑貨や新しいものや…)

悦子 障害のあるお子さんが楽器とのふれあいでいい効果が出たこともあったの。ここで演奏会をやったこともあるのよ。外の木々も聞いていた(音楽に合わせて揺れていたのを見たときには感動したぁ。断捨離が流行ってるけど、長くとっておいたものをある日有効に使うこともある。長く持ち続けていると実現するのね。夢も同じね。

okamoto-san's room

okamoto-san's room decoration

okamoto-san during the interview


ーなるほど!人もものも動物も集まった魅力がここにはありますね。

悦子 人と動物だけでなく植物も、命あるものすべてと共存していきたいの。すべてのモノやコト、何も取り残したくない。

ーここには、生き方を学べたり考えたり出来る“モノ”や“コト”が沢山ありますね。多くの人に訪れてもらいたい場所だなぁと思いました。インタビューは以上となります。本日はありがとうございました。

 

<インタビューを終えて>
小柄でほっこり笑顔の悦子さん。バイタリティーな活動の源は、すべてのものに注がれるあたたかい愛情なのだと感じました。誰も何も取り残すことなく、個性や役割を大切にして過ごされています。悦子さんの思いが詰まったヤギの里は、自分や大切な誰かの命のことや、「生きる」ということ、「活かす」ということを見つめ直せる、優しい時間を体感できる場所だと思いました。(菊池)

インタビュー:菊池奈々
写真:岩井田 優
編集:もりおか ゆか