居心地の良さから抜け出すことが次のステップに進むカギ。まずは自分がとことん極めることで血肉になる。

ITエンジニアとしてアプリ開発などに携わったのち、新規事業開発部への異動をきっかけに、現在もアドバイザーとして携わっているボードゲーム「ディノバーン」「アチーバス」と出会ったという戸田雄輔さん。ボードゲームとの出会いをきっかけに興味関心を広げ、独立。2020年4月より開所する民設学童保育の企画運営を担当するなど、活動の幅を広げています。そんな戸田さんは、興味を持ったことに対して「第一人者と会って話すだけではなく、自分がそれを教えられるようになるまでやる」といいます。いろいろな経験は積んできたつもりだけれど、その先のステップは?と迷う人へ。取り組んできたことを次につなげる、結びつけるためには?戸田さんの原動力に迫ります。

(戸田雄輔さんプロフィール)
ITエンジニアとしてシステム開発会社に勤めたのち独立。現在、ボードゲーム「ディノバーン」「アチーバス」などを活用した企業研修講師や玩具開発メーカー・ボードゲーム開発のアドバイザーを務め、ボードゲームを活用して遊びながら「思いやり」や「リーダーシップ」を育む環境づくりに取り組む。民設学童保育「ちがさKID’s~みんなのヒミツキチ~」(2020年4月より開所)企画運営を担当。

 

ー戸田さんは現在、個人事業主として玩具開発メーカーのアドバイザーや企業研修講師も行っているんですよね。もともとはSEだったとお聞きしました。

戸田 はい。ITエンジニアとしてスマートフォンアプリの開発などを行っていました。スマホって半年に1回くらい新機種が出るでしょう。開発のスピードも速くて、1年先とか、ずっと先の情報が入ってくるんですよ。それをやっているうちに「もっとこうやったほうがいいんじゃないか」っていうのが見えてきて、僕は積極的に提案していたんですね。そうしたらある日、「新規事業開発部門にいかないか」って言われて。SE職から新規事業開発部のマネージャーになりました。そこが一つ転換点で、一気にSEとは別の考え方の仕事になりました。

ーかなり方向が違いますよね。

戸田 新規事業開発部では、まとまった予算を預けられて、この中でなんでもいいからアイディアを出して事業化してみて、っていうタスクで(笑)。何をしたらいいのかわからないし、何をもって新規事業というのかもわからなくなって。それで最初にやったのが、すでに世の中に出ている面白いものを徹底的にリサーチすることでした。

ほぼ会社には行かず(笑)、展示会にいったり交流会にいったり。新しいものを見る、触る、それらに携わる人に会う……そういうことをしていたら、「全然知らないけどこれ面白いぞ!」って思うものに出会う機会がありました。同時に「面白いのに売れていない」とか、自分はいいと思うのにほかの人からは「(売るのは)難しいよ」と言われたりすることがあって。それを疑問に思って、「自分で売ってみよう。売ってみて、その実感をもって企画を追加していったらどうだろう」と思ったんです。それで取り組み始めたのがディノバーンやアチーバスでした。

ーじゃあ最初は会社で取り組み始めたものだったんですね。

戸田 そうです。ゼロからの事業開発ってやっぱり難しいですから、新しい“物”を生み出す前に、まずはすでにある物を活用し、改良や新しい“人”にサービスを提供していくことから始めるのがいいんじゃないかと思って。それができて初めてゼロから物を生み出せるのではないかと。

最初から莫大な利益が出るものではありません。でも、残念ながら面白いものと売れるものは違っていて、当時の会社の考える方向と私のやりたいことにだんだんズレが生じてきて。それで独立を決めました。そうしたら、たまたま2社ともに、売り方や次のコンセプトを考えるアドバイザー役がはまりまして、そして今に至ります。

ー学童につながってきたのはどういった経緯から?

戸田 独立してから、玩具の体験会をいろいろなところでやっていたのですが、ある日私の活動や経歴に興味をもった方から「勤労会館で学童運営者を募集しているよ。条件は厳しいけど戸田さんならできるんじゃない?」って言われたんです。開所には、シニアや多世代の活用、チーム力育成の取り組みといった細かい条件が多々あったのですが、僕はもともと認知症予防の活動をしていてシニアには慣れていましたし、アチーバスというチーム作りのツール、ディノバーンという子供たちといくらでも繋がれる道具も持っている。条件が揃っていました。

2020年4月に開所する「ちがさKID’s」

ーそこで、戸田さんがやってきたことが全部つながったと。

戸田 そうですね。ただ、僕一人じゃ満たしていない条件もありました。法人であることと、教育に携わる実績があることです。それで、学童の件をご紹介くださった方が、保育園の社長さんを紹介してくださったんです。社長さんはもともと学童に興味を持っていらして、いろいろお話したらすぐにやろうってなって。(保育園の)社長は、教育の実績を出してくれて、僕は、アイディアと人脈を出す。そういう役割分担です。

ーなるほど、それで企画担当で入ることになったんですね。

戸田 僕は、「遊んでいたら結果的に学んでしまう娯楽を提供する学童」を目指しました。「これをやったら頭がよくなる」ではなく、「これをやったら楽しい。で、結果すごくいろいろ吸収できる」。勉強でも学びでもなく、娯楽なんです。開所には資格を持った人が必要だったのですが、それはFacebookで呼びかけました。複数人応募してくれましたが、この理念に共感してくれた山際布由子さんに来ていただくことにしました。

山際布由子さん(右)

ーいいですね。ビジョンで共感できる人が増えていくといいですよね。

戸田 そうですね。単に子どもを預かるだけとは思っていませんから、職員採用も重視しています。経験ではなく、ビジョンに共感できるか。さらに言えば、正直ここで掲げているビジョンを批判する人はいないと思っていて、だからこそ、それを「素晴らしい」と評価するだけではなくて、行動ができる人にいてもらいたい。

「遊びから学ぶ」部分って、昔は家庭で経験していたことかもしれません。でも、今は共働きとかでなかなかできない。学校でも家庭でもできないその部分は、学童が担うものだと思うんですよね。

ーいまは外で遊ぶのも制限されたり、学校教育では正解があるものを教わったり……そういう教育ですもんね。シニアの方にはどういうふうに関わってもらう予定ですか?

戸田 学校へのお迎えをやってもらうつもりです。一口にお迎えといっても、単に一緒に歩くだけではなく、そこで子どもの様子を窺ったり、道中のコミュニケーションが大切です。そこを“先生”ではなく、おじいちゃん、おばあちゃんの目線でしていただけるように。

施設を運営する側としては、ある程度経験があって、元気な、若い人を採用したほうが楽なんですよ。でも、それだと子どもたちは同じ世代の人とだけ接することになってしまう。なるべく多世代と関わってもらいたいんです。だから、学生にも関わってもらいたいと思っています。

ー学生だとどんな風に?

戸田 学童では自学自習ができる教材を用意する予定で、その丸付けをやってもらおうかなと。実は導入予定の教材はディノバーンの開発会社が提供しているものなのですが、今回特別に提供してもらっているんですよ。

ーそこも、戸田さんのこれまでの人脈だったわけですね。

戸田 単体では大きな収益にはならないかもしれませんが、企業にとっても、この学童で使うことでデータや実績が溜まれば、次につながって、商品の広がりにもなっていく。

もしかしたらここが企業の実験の場になるかもしれません。何か新しい製品をつくったときここでフィールドテストして、子どもの声、お母さんの声もきける。大手企業であれば半年や1年のスパンで実施することを、ここならすぐできてしまいますからね。

ー子供にとっても、まだ世の中に出ていない玩具で遊べるってわくわくすることですよね。みんな美味しい(笑)。

戸田 そうです、それも民設民営だからできること。誰も損しないんですよね。そういったことまで考えて、(学童を)やろうって思ったんです。実は、すでに1社新規開発でテストしたいって話が出てきています。

ー先を期待しての時間投資だったわけですね。すばらしい! 戸田さんの行動の軸になっているものって何ですか?

戸田 そうですね……新しい技術を追い求めることと同時に、古い物の中から今こそ生きるものを探すっていう、その2軸です。任天堂の横井軍平氏の言葉で、「枯れた技術の水平思考」っていう言葉があって、これが好きなんです。30年、40年前にできた技術のなかに、今こそ生きる技術もあるはずだってことで、ディノバーンはまさにそれでした。

ディノバーン

7つの異なる形のピースを組み合わせて形をつくるゲームって、ある程度昔からありましたよね。でも、そこに現在のAR技術が組み合わさったことによってめちゃくちゃ楽しい、今の人が熱中できるものになった。新しいものだけ追い求めても、何か足りない。古い物だけを生かそうとしても、何か足りない。両方がミックスされたとき、今の人が熱中できるものが生まれる。

ー戸田さんの強みは、そうしたものを掘り起こしたり、組み合わせるものの目利きといえるのでしょうか。

戸田 そうですね。あとは、それを使った人がどうなるかって具体的なイメージが浮かぶんです。そうそう、ウォーキングサッカーに関しても新しいターゲットを狙っていますよ(笑)

僕のイメージはこうです。ディノバーンやウォーキングサッカーといった商品があって、そのまわりにターゲットとなる子どもやシニア、現役のビジネスマンがいる。通常だと、ディノバーンは子ども、ウォーキングサッカーはシニア、とか一直線で繋げて考えるんですけど、「これはお年寄りだったけど、子どものほうがいいよね」とか「子供向けだけど社会人向け研修として売ったら新しい価値になるよね」とか常に考えているんです。これが、一つの視点からの経験しかない人だったら生まれてこない。いろいろな層と触れてきた経験からの強みかなと気づきました。

ーなるほど。そういう風になれたのはなぜなんでしょう。

戸田 興味あるもの全部に顔を出して、聞くだけじゃなくて体験するってことですね。インストラクターになったりとか、とことんまでやること。例えば認知症予防の団体では、はじめはトレーナーだったけど、最終的には理事までやりましたから(笑)。

ー戸田さんは、「いてもらわないと困る」ってところまでぐいっと入っていけるイメージがあるんですが、人との関わり方で心がけていることはありますか?

戸田 アチーバスでいうところの「コール」と「ギブ&テイク」をリアルでやっているんです。共通点を探す(コール)ことで信頼をつくって、それから、僕ができることと相手ができることを見極めて、交換する(ギブ&テイク)。

ーアチーバスがある種行動規範になっているんですね。

戸田 アドバイザーという職業柄もあって、人との信頼関係の調整は気を付けている部分です。アドバイザーは、経営者ではありませんから、あくまで彼らのやりたいことを尊重しつつ提案していかなければなりません。

ー会社員から独立して、変わったことはありますか?

戸田 人とつながる量は圧倒的に増えましたね。自分が望まなくても、どんどん増えていきます。あとは、無駄は多くなるかな(笑)。ボーっとしている時間とか。

ー戸田さん、ボーっとしている時間あるんですか?

戸田 ありますよ!(笑)無駄といっても本当の無駄ではなくて、結果的に有効にはなるんだけれど、第三者からしたら無駄に見えるというか。

例えば、研修の中で寸劇をすることがあるのですが、そのシナリオ考えないといけないときとかあって。でもそれって考えれば考えるほどできないんですよ。そういうときは、ひたすら寝たり、スーパー銭湯に行ったり。たまにサウナで閃いたりするんですけど、その瞬間メモするものがないから困る(笑)。

ー考える時間、次の企みのための時間ってことですね。戸田さんは、ここまできっちりキャリアプランを立ててこられたんですか?それとも、ある種衝動的に、やりたいことを重ねていった?

戸田 その時面白いと思ったものの積み重ねですね。そのカードがどんどん増えていって、それを組み合わせたら、あれもこれもできるじゃん、て。プランよりも道具があって、それを最適に使うにはどうしようかと考えている感じですね。実際、裏で埋もれているものもたくさんありますよ。むしろ埋もれているものが多いくらい(笑)。

ー今まで失敗と思った経験はありますか?

戸田 うーん……基本「失敗」とは位置付けていなくて。アチーバスの中にも「失敗から見つかるチャンス」っていう言葉があります。失敗したからこそ気付けたことや、つなげられたことがあったんですよね。

ー戸田さんが今後目指しているものは何ですか?

戸田 そうだなあ……僕は自分で会社を作りたいっていうよりも、俯瞰してアドバイスする役割をしていたいんですよね。先頭に立つのではなく、一歩引いてその場にあるものの関係性も踏まえて、改善点や強みを見つけたり。アチーバスの社長にも「俯瞰する力が強いよね」と言われます。それは、もともとの性質もあるのかな。

ー10年後、15年後の戸田さんの姿は?

戸田 たぶん、ディノバーンみたいな玩具でオリジナルのものはたくさん出していると思う。オリジナルの商品を、湘南の学童で使ってもらいたいと思っています。いまは商品がある状態でアドバイザーをしていますけれど、商品そのものをもっとこうしたほうがいい、とか思うところもありますから。

ーいまご自身が思うことを叶えた、より良いものを自分発信で作っていくということですね。最後に、これから会社員から一歩先に踏み出したい人へ向けてのアドバイスをお願いします。やはりまずは人と会うことでしょうか。

戸田 人と会って話すだけではなく、いったん自分が納得いくまで極めることでしょうか。出会ったとき、その人に何かやってもらおうと思ったらダメだと思います。その人を頼りにするのではなく、その人ができることと同じくらいのことを、まず自分でやってみること。そうすると、それが有効かどうか実感値としてわかってきます。

本当に極めるかどうかは問題じゃなくて、そうなりきれるかどうか、なんですよね。結果同じようにはできなかった、となっても発見がある。さっき話した、失敗のあとに見つかるチャンスみたいなものです。

ー経験することで、自分の血となり肉となってつながっていくと。

戸田 それから、居心地がいいところからは出ないといけないですよね。自信がないからって自分ができるところから始めていると、そのサイクルから抜け出せなくなります。

ー居心地のいいところから抜け出そうとする、越えようとする力が戸田さんの強さなんですね。まずは4月に開所する学童ですね。ぜひまたオープンしたら見学させてください。今日はありがとうございました。

 

<マイレジェンドから学んだこと>
失敗に囚われて、何もしないのではなく、どんどん興味のあること、やりたいと思ったことを突き詰めてトライしてみること、人との繋がりを大切にされているだけでなく、その人の活動や出来ることを詳しく知っているからこそ、「自分ならどうその人や、活動を活かす事が出来るのか」や「俯瞰」してみることが出来るというのは、とても印象的でした。また一度失敗だと思った体験を他のことにはどう活かせば上手くいくのかを考えたりすることで、失敗だと思っていた経験もムダではないと思えるし、考え方ひとつでプラスになっているというスタイルが、多世代の何か新しいことに挑戦しようとしている人や、失敗を恐れて行動出来ない人達の参考になりそうだと思いました。(菊池)

3年前くらいから戸田さんとはご一緒する機会があったのですが、今まで活動されてきた「認知症予防体操」「ボードゲーム」「パズルゲーム」「ウォーキングサッカー」などが今回の学童保育の中でつながりをもって戸田さん独自の価値となっていることがよく理解できました。

  • 興味を持ったことに参加するだけでなく、自分が教えられるレベルまで実践すること。
  • 一見対象者の異なる「点」の活動が組み合わせによって「面」の活動となり独自の価値となること。
  • 企画者として俯瞰をするという自分の立ち位置を理解すること。

社会人という立場から独立した一人のビジネスパーソンとして歩まれる戸田さんの姿にこれからも刺激をいただきながら、私もがんばりたいと思いました。(山口)

戸田さんに初めてお会いした際に名刺を何枚もいただき「何をしている人なんだろう?」と困惑したのを覚えていますが、お話を聞いているうちにその気持ちはどんどん払拭されていきました。更に、実行力もありその道に携わって数年で市の認可を受けた学童保育場を立ち上げるに至っています。
それはどのような状況でも「もっと良くできるんのではないか?」と考え続け最適化を目指し習得したいものがあれば、教わる相手と同じぐらいできるようになりたい。
たとえ出来ないとわかったときでも何かしらの知見を得て次に役立てようとする姿勢、等々。
パッションの大きさ、すべてを肯定する度量の大きさを肌で感じ取ることができました。今後の活動の手本としていきたいです。 今後の活躍も楽しみです。次は何をやってくれるかワクワクさせてくれる方です。(高橋)

取材:菊池小夏、高橋譲司、山口順平
撮影:安藤アン誠起
文:もりおかゆか