人生には、レールも、誰かと一緒でなきゃ、もない。 “自分”を大切に、人生単位でキャリアを考えて。

新卒で第一志望の大手銀行に就職し、順風満帆にキャリアをスタートさせた山添夏奈さん。しかし、業務内容と自分の志向との違いに苦しみ、休職。当時は「もう自分の社会人人生は終わった」とすら感じたといいます。しかし今では、「その経験も含めて全部、笑えるようになった」と笑顔で話す山添さん。彼女が乗り越えてきたこと、そして、「自分の武器」と話すキャリアコンサルティングの資格を取得して、今思うこととは?人生に躓きを感じているすべての人へ伝えたい、山添さんのマイストーリーをお聞きします。

ーまずは、山添さんのこれまでのキャリアを教えてください。

山添 大学卒業後に就職して、いま社会人6年目です。新卒では銀行に就職して、今は転職して自動車リースの会社で事務職に就いています。今年に入ってキャリアカウンセラーの資格を取ったところです。新卒の時は、ファイナンシャルプランナー(FP)を目指していたんですよ。

―そうなんですね。どうしてFPだったんですか?

山添 資産運用に興味があったというよりも、お金という繊細な部分に寄り添えることが自分の強みを生かせる仕事かもと思ったんです。わたしは、自分の強みは、困った人がいると放っておけないというか、“人に寄り添う”部分だと思っていて。その強みをいかしつつ、専門性を持てる仕事がしたかったんです。それで、「FPだ!」ってピンときて。結局、職種も会社も、第一志望だったところに就職することができました。

―希望通りのキャリアをスタートさせることができたんですね。

山添 はい。でも実は、入社してしばらくして休職しているんです。

FPで入社したんですが、最初は窓口業務からのスタートでした。時間を意識しながら次々来るお客様をさばいていく、という業務が、じっくり人に寄り添いたい自分とは合わなくて……それから、業務のために取得必須の資格試験も6つくらいあって。新しい仕事を覚えながら試験勉強をするという生活をしていたら、ある日プツンと動けなくなってしまったんです。

ーそうだったんですね。

山添 望んで入った会社でしたし、大手企業でしたし、捨てきれない気持ちもあって。だから、辞める気持ちは起こらなくて数か月で同じ職場に復帰しました。でも、身体も万全じゃなく、3か月くらいでまた休むことになってしまいました。その時は、ほんとに、「あ、自分、社会人として終わった」って思いました。人生で一番つらかった。「ダメな新人だ」「社会不適合者だ」って……

わたし、ずっと、人生ってレールがあるんだって思っていたんです。大学に行って、就職して、結婚して……それがキレイにいくものだってずっと思っていたので、それが崩れたときに、「自分は何者なんだろう」って思うようになりました。ずっと、「みんなと同じように進まなくちゃ」って思っていたから、「自分らしさ」みたいなものは持ち合わせてなかったんですよね。

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―休職したとき、ある種“どん底”を経験して、でもそこから一歩抜け出せたのは、どんなきっかけがあったんですか?

山添 身体も回復して動けるようになってきたとき、「人に会ってみよう」って思ったんです。友達に誘ってもらうこともありました。そのとき、SAMURAI MEETUPSっていう同世代の方が立ち上げたNPOに出会ったんです。みんな平日は仕事をしていて、週末に海外の人たちと交流する活動していました。そことの出会いは、その後の人生を考える糧になりましたね。

わたし、実は生まれがカナダで、3歳まではカナダにいたんです。だから、グローバルの視点はずっと近くにありました。でも、銀行に就職したし、もう海外の人たちと関わることってないんだろうなって思っていたんです。でも、思いがけずその機会に出会えました。

―海外育ちっていうルーツを聞くと、「合わせなくちゃ」っていう価値観がすこし意外な感じもしますが……

山添 うーん……学校も影響していたかなって思います。グループに属さなきゃとか、そこから外れることへの恐怖とか。何か抑え込みながら中学・高校生活を送っていたところがありました。例えば誰かが好きって言ったものが自分には興味がなかったとしても、「それって、自分が変なのかな」って思って関心があるようにふるまったりとか。

銀行のときも、厳格な組織だったし、そこに馴染める人にならなくちゃってずっと思っていました。「周りに合わせる」ことを優先していて、そこに「自分らしさ」ってなかったんですよね。でも、「自分らしくありたい」っていう気持ちはずっと持っていたんだと思います。

―「合わせなくちゃ」と「自分らしさ」のせめぎあいだったんですね。

山添 以前のわたしは、人と自分を比較して気にしていました。今も全くないわけではないですが、出会う人の数が増えたら「人って同じものは絶対にない」ってわかってきたんです。そうしたら、自分の価値観を、「個」として受け入れられるようになりました。

休職って、最初こそ、周りに後れを取っているっていう焦りがあったんですけど、逆に考えてみたら、自分の時間を与えられた時期でした。休職中に会社以外に目を向けたことで、周りにとらわれない考え方が自分の中に出てきたんですよね。

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―たくさんの人と出会ったことで、価値観を広げていったんですね。キャリアについては変化はありましたか?

山添 二度目の休職のあと転職して、今は事務の仕事をしています。でも、最初に考えていた専門性のある仕事や自分の強みの追求とは合わないなと思っていて。探していたところで、キャリアコンサルタントを見つけて、昨年の7月に資格を取りました。

「自分は何者か」を考えたとき、「自分はこうだ」って言える何かが欲しいって思ったんです。それに、休職も含めたこの経験を、何かにつなげていきたいという気持ちもあって。それから、AIで人の仕事が削減されるってよく聞きますが、じゃあずっと続けられるものは?と考えて出た答えが、「人に触れられる仕事」だったんです。この2つがマッチしたのがキャリアコンサルタントでした。見つけた瞬間、ほんとに迷いがなくて。即アクセスして、1か月後には養成講座を受けていました(笑)。

―「専門性」と「人」は山添さんのキーワードなんですね。チガラボやキャリアラボは、どんな存在ですか? 

山添 職場は東京!って思っていたし、地域って頭になかったのですが、チガラボにくるようになってから、地域活動の楽しさを知りました。小さい輪の中から、何か新しいものが生まれてくる。そんな場所があるんだって。茅ヶ崎の人たちは、自分を持って自由に何かしている、そんなイメージがありますね。都会やグローバルという大きなものを見るだけではなく、地域に目を向けてみたら、考え方が大きく広がった気がします。この感覚って、すごく大事だなと思いますね。

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―チガラボとの出会いと、キャリアコンサルタントの資格を取ったこと、この2つはこれからどうやってクロスしていきそうですか?

山添 わたしにとって「地域」はこれからキーワードになってくると思っています。近々結婚する彼の仕事の関係で、いろいろな地域を転々とする予定なんです。「独立したい」とか野望は全然ないんですけど(笑)、社会に何ができるのかを明確にして、いろんな人に貢献していけることが理想です。ここにいるから安全、とか、一つの会社にとらわれるのではなく、どこにいてもやっていけるような力をつけていきたいです。女性としてのライフステージを考えても選択肢を増やしていきたいし、自由に生きていきたい。

―半年後には名古屋に行かれるということで。残りの期間、キャリアラボでやっておきたいことはありますか?

山添 インタビュアーはやりたいですね。人の話を引き出すのは面白いのかもって。それから、「地域活動」というものを、自分の中でひとつ形にしておきたいです。それをほかの地域にも持っていけたらいいなって。これまではイベントに参加する側でしたが、自分から発信できる側になりたいと思っています。

―具体的にやりたいことがどんどん描けてきているんですね。

山添 そうですね。でも、目標を設定して逆算するキャリアというよりも、興味関心があるところを掴んでいって、気づいたら何かにたどり着いていたっていう積み上げ式のキャリアで進んでいけたらと思っています。

今までいろんなことがあったし、その渦中にいるときはほんとに辛くてどうしようもないこともありました。でも、人生100年時代の単位で考えたら、その期間てほんとミジンコみたいな感じ(笑)。無駄なことは何もないし、その瞬間はその後に続くバネだって思います。いまは逆に、自分に「ありがとう」って言いたいくらいです(笑)。辛い経験があったからこそ自分の価値観に気付けたし、前向きさを取り戻せた。道を一つに決めないで、楽しみながらキャリアを築いていきたいですね。

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―最後に、言っておきたいことはありますか。

山添 “キャリア”って、仕事を想像する人が多いと思うんです。特に女性は、結婚か、仕事(=キャリア)かとか。でも、仕事だけではなく自分の経験すべてがキャリアで、そうやって人生単位でキャリアを考える人が増えたらって思います。それを広げるのが、今の自分の役割かなって思っています。

―ありがとうございました。

<インタビューを終えて>

山添さんは、インタビュー中ずっと背筋をぴんと、一言ずつ言葉をかみ砕きながらお話されているように感じました。人生で一番つらかった、と語る休職の経験も、キャリアコンサルタントにたどり着くまでの道筋として昇華されていて、「経験を糧に切り拓いていく」ってこういうことだなと、実感しました。山添さんの言葉が、たくさんの人に届くように。願わずにはいられないインタビューでした。

インタビュー:中村 容
写真:岩井田 優
編集:もりおか ゆか