大切な人に会う、新しい体験をする―貴重な時間を何に使うか、心のままに選べる自分なりのワークスタイルを。
「ひとつを取ったら、もう片方は諦める。今までずっと取捨選択しながら生きてきたと思うんです」そう語るのは、工藤麻奈(くどうあさな)さん。新卒で大手リゾートホテルチェーンに就職、3年間勤めた後、会社員を離れ、現在は茅ヶ崎にあるコワーキングスペース・チガラボと、母校・横浜市立大学の吉永研究室コーディネーターのパラレルで働いています。昨年から今年にかけて、退職、転居、結婚、とめまぐるしい転換期を迎えたという麻奈さん。大きなライフステージの変化を経て、麻奈さんが今考える理想の働き方、そして、今後についてもお聞きしました。今回は、シリーズ初のオンラインインタビュー!
―早速ですが、麻奈さんのキャリアのスタートから教えてください。
麻奈 大学卒業後、全国展開しているリゾートホテルチェーンに就職しました。最初に配属されたのが長野県松本市にある温泉旅館で、その時初めて一人暮らしを経験しました。
―仕事と一人暮らしが同時に始まるって、大変だったんじゃないですか?
麻奈 そうですね、やっぱり最初は覚えることも多いですし、現場は体力勝負なところもあって。加えて、私はもともと家事が得意じゃなかったので、それでずたぼろでした(笑)。
でも、地方の田舎暮らしは案外楽しかったですよ!市内にはおしゃれなカフェもあるし、車で少し走れば大自然もある。星もきれい。お勧めです(笑)。
―もともとホテル業を目指していたんですか?
麻奈 いや、全く! 私、典型的な、「やりたいことがわからない」就活生だったんです。だから、いろんな説明会に足を運びまくって。文系だったので、なんとなく営業かなと、メーカーとかも見て……でも、営業って、相手にお勧めするわけだから、自分自身好きな物を扱うほうがやりやすんだろうなと思って。だけど、私は物欲も強くないし、物にはあまり興味がなかったんですよね。どちらかと言えば、形がないものの方が好き。それで、サービス業に興味を持ちました。大学では経営組織論やマネジメントについて学んでいて、就職したホテルチェーンは、よくケーススタディとして耳にしていたんです。
そこでは3年間働いて、去年の3月に退職しました。その後実家に戻ってきて、6月からチガラボでスタッフに。ここからめまぐるしいんですけど(笑)、秋に結婚して小田原に引っ越して、今年3月からは、母校・横浜市立大学の出身ゼミ、吉永崇史先生のところで研究室コーディネーターとしても活動しています。なので、今は、チガラボスタッフとコーディネーターの2つの仕事をしています。
―ホテルで働いていた3年間は、どんなことを考えながらお仕事されていましたか? 大切にされていたこととか。
麻奈 うーん……正直、当時は仕事に特別なモチベーションはなかったんです。こんなこと言ったら、サービス業なのに、って言われるかもしれませんが、お客様の笑顔を見るのが嬉しい、楽しい、とかはなくて。やりがいは?と聞かれても特にはなく……でも、それって自分の中では決してマイナスなことではなかったし、やる気がなかったわけでもないんです。責任ある立場も任せてもらいましたし、ちゃんと働きはしていました。こういうと大抵、「なんで3年も勤めてたの?」って言われますけど(笑)、しいて言えば、責任感というか……。
―ポジション的に責任あるところを任されているからやらざるを得ないとか、そういうことですか?
麻奈 なんでしょうね、そういうのともまた違って。いちメンバーとして働く時も手を抜いているわけじゃないんです。目の前にあることを投げ出さないでやる、それが仕事だからやるっていうだけのことで。それ以上でもそれ以下でもなく。
―それはそれでなかなかすごいですよね。着実に目の前のことをこなして3年間。そこを辞めたきっかけは、ご結婚ですか?
麻奈 そうですね。でも、本当はずっと悩んでたんです。毎日、家に帰るとボロボロで家事もろくにできなくて、休日は死んだように寝てるっていう生活で、体力も限界に近づいていて。そこに結婚の話が出てきたんです。夫の異動先が関東だったので、(東京にある)管理部門への異動も考えたんですが、住居のこととかいろいろ考えた結果、辞めることにしました。
結局、ずっと踏み切る要素がなかったんですよね。辞めたいって思っても、「これは一瞬の気の迷いなのかな」とか、「今日はそう思っているけど、朝になればまた頑張れるかも」って、その繰り返し。耐えられないほどに嫌なこともないし……。でも、確実に蓄積はしていたんですよね。結婚ってなったら余計に、こんな生活続けていたら、家庭も何もないなと思えましたし。
―実は今回麻奈さんにお話お伺いしたのは、自分と境遇が似ているなと思ったから、という理由もあったんです。私も最近結婚して、夫の転勤で引っ越して。結婚って大きな転機だと思うんですが、価値観や心境の変化とかありましたか?
麻奈 案外変わらなかったなという感覚もあるんですけど……。一番変わったのは、仕事に対しての考え方ですかね。正社員にこだわらず、理想の働き方を追求したいって。
私、自分が転職するとしたら、また正社員になると思っていたんです。でも、ありがたいことに、結婚して二人の生活になり、私が100パーセントで働かなくても生きていける状態になりました。彼は、私が前の仕事で体調を崩したのを見ていたので、「無理に働かなくてもいいよ」って言ってくれていて。ほんとうにありがたいですよね。だからこそ、今の環境を生かして、理想の働き方を考えていきたいなって思っています。それで、正社員以外の道も考えようかなって。そう思えた変化はありました。
―プライベートと仕事の割合とか、結婚すると自分の中で変わってきますよね。
麻奈 仕事を辞めて、考える時間があったっていうのもあるんですけどね。この間、母校のゼミで卒業生がキャリア体験談を話すイベントがあって、私も話したんです。「理想の働き方を追求したいから、正社員以外の道を模索している」って言ったら、現役生の子にすごく驚かれたんですよ。
その子は、パラレルワークや個人事業主って、やりたいことが明確にあるからなるんだと思ってたって。確かに私はやりたいことがあったわけじゃない。けど、働き方はどうにかしたい。だから、フリーランスや個人事業主の選択肢も持っている。その考えが新鮮だったみたいで。今は自由ですよね。
―そうですね。麻奈さん自身も、学生時代と今は考え方が大きく変わっていますか?
麻奈 変わりましたね。ほんと、私は真面目人間で(笑)。ずっと世間が言うレールの上を歩いてきていて、「起業なんてとんでもない!」みたいなタイプでしたから。一番のきっかけは、チガラボで働き始めたことだと思います。
同世代の友だちはみんな都内でOLしているし、自分は新卒からずっと地方にいて、閉ざされた空間にいたみたいなものだったんですよね。自分と、周りの友だち以外の働き方や考え方に気づいてなくて。でも、チガラボにきて、フリーランスや、会社勤めだけどテレワークで、とか、いろんな働き方があることを知りました。イベント参加者も、やりたいことを宣言してどんどん自走していく。そういう姿を見ていたら、何をするのも抵抗がなくなりました。
―いろんな人と出会ったことで、働き方や考え方の幅が広がったと。
麻奈 そうですね。チガラボは、同じスタッフからも刺激をもらっています。チガラボスタッフって、みんな仕事を複数持っているんですよね。その中で、私は当初スタッフしかしてなかった。それが嫌というか、モヤモヤして、私も何かやってみたいって思うようになったんです。
―それで研究室コーディネーターに。
麻奈 はい。学生時代から地域活動に興味があったので、地域に絡めて何かと思ったけど、引っ越してきたばかりで居住地域とは馴染みがないし人脈もない。経験もない。それで迷っていた時に、吉永先生に近況報告を兼ねてご相談の電話をしたんです。それがきっかけで。
うちのゼミは、3年生になると学外の人と関わる課外活動もしているんです。それで、そのコーディネーターをやってみたら、私の経験値になるんじゃないかって。
―なるほど。その流れで、今年、ゼミとキャリアラボとを繋いでくださったんですね。(※)
麻奈 はい。せっかくなら、チガラボと一緒に何かできれば面白いと思って。
- 2020年度より、湘南ワンハンドレッドプロジェクト・キャリアラボ事業と横浜市立大学・吉永ゼミとの協働プロジェクトがスタート。手始めに学生たちといっしょにイベントを企画中です。
―麻奈さんも、まさにいま「ラボ」しているんですね。今後についても伺いたいのですが、麻奈さんは今カメラにご興味があるとか。
麻奈 たまたま興味を持って一眼を買ってから、練習したり本を読んだりしています。もともと、アナログなものが好きなんです。副業って、プログラマーとかデザイナーって選択肢もあると思うんですけど、パソコン系は苦手で。でも、これも最初からビジネスにできるとは思っていません。だんだんと、広がっていったらいいなとは思いますけど。
―これからいろいろなことに挑戦されて、それらを繋げられたら、とお考えなんですね。麻奈さんが理想にする働き方を教えてください。
麻奈 完全に夢なんですけど……大切な人に会いに行ったり、新しいことを体験したり、些細だけどそういう時間を大事にしたいんです。今まで取捨選択だったんですよね。自由な時間をとれば、お金は手に入らないとか。
生活のために働いて、結局それで体力や時間がなくなって本来やりたいことができないとか。旅行に行きたい、けど、時間がない。やりたいけどお金がなくなる、生活できなくなるからそれより仕事、とか。私の場合、北海道にいる祖母に会いたくても、フルタイムで会社員していると簡単には行けなかったり。
やりたいことに費やす時間があって、でも、暮らしていけるだけのお金はあって。そういう時間とお金のバランスが理想です。これってめちゃくちゃ当たり前ですよね(笑)、でも、忘れかけていたというか、諦めていたというか。だけど、時間に関係なく、私が思う十分な生活を満たせるお金が得られる仕事や働き方はきっとあるはずで。何も、ビジネスで大成功したいわけではないので(笑)。
―麻奈さんはほんとに時間を意識されていますよね。
麻奈 結婚して、余計に考えるようになったのかも。思えば、就活のときから取捨選択してばかりですよね。休日、やりたいこと、給料、人間関係、エリア、とか、10個くらい並べて優先順位をつけて、何かを得たら何かを諦める。私の場合、音楽を続けたいなら東京にいたほうがいいけど、リゾート地で働きたいという希望とは一致しない。一方をとったらもう片方は諦めるって、そうやって生きてきてる。正直、それが当然と思っていて、足掻いたこともなかったから、人生一回くらい、それを求めてみるのもいいんじゃないかなって思ったんです。
―最後に、麻奈さんがこれからも大切にしていきたいことを教えてください。
麻奈 発信は大切にしたいですね。1年前、チガラボで働き始めたばかりの頃、スタッフしかやっていない自分が何者かわからなくなった時期があったんです。その時、代表の(清水)謙さんに、「仕事だけじゃなくて、仕事外でやっていることや、興味があることも人に言ったほうがいいんだよ」って言われて。自分が何者かを決めるのは、仕事だけじゃないんですよね。カメラもそうですけれど、仕事にはしていなくても、興味がある、撮り始めている、と言ったら、「あの人、カメラに興味あるらしいよ」とかって次に繋がっていくかも。
私、昔から、完成させてから外に出そうとするタイプなんです。でもそうすると出来上がるのが30年後とか(笑)、時間が掛かるものもあるかもしれない。だから、未完成なままでも、出す努力をする。そういうことを大事にしたいですね。
―走りながらやっていくってことですね。麻奈さんは、きっとご自身の理想や目標を着実に叶えていかれるだろうなと思いました。ありがとうございました。
インタビュー:山添夏奈
撮影:岩井田優
文:もりおかゆか
<インタビューを終えて>
「目の前にある仕事を投げ出さないでやる。それ以上でも以下でもない。」と言い切った言葉が印象的で、麻奈さんは率直で飾らない、キリッとしたかっこいい女性だと感じましたが、時折みせる笑顔に魅了される場面が何度かありました。
理想や大切にしていく事を追求していくも、夢物語ではなく着々とこなしている今(大学ゼミとの関わりやカメラを始めた事など)が今後どのような形となっていくのか、麻奈さんらしいパラレルキャリアを積み上げていく姿が、私の頭の中でははっきりと浮かんだ気がしました。応援しています!(山添夏奈)