アートは全ての人が秘めている心を豊かにする“資源”。自らを発掘して新しい自分を切り拓こう。

suzuki-photo-top

「とりあえず、手を動かしてみることが大事」と、語る鈴木さんは、畑違いの分野からほぼ独学でア ーティスト・ギャラリーオーナーになった方。早稲田大学卒業というキャリアを持ちながら、専攻での就職という道は選ばずアートの道に進んだ鈴木さん。はじめからアートの道に進むと決めていた訳でなく、沢山の”やってみたこと”のひとつが現在を創ったと言います。そんな鈴木さんがご自身の人生を通して語ってくださったことは、知らず知らずのうちにルールにとらわれてしまう現代のみなさんの”挑戦してみる”ことへ背中を押してくれるメッセージになると感じます。

(鈴木清安さんプロフィール)
茅ヶ崎駅から徒歩3分。アートギャラリーSZKギャラリーオーナー/フリーランスイラストレーター/昭和31年生まれの63歳。/フリーランスのアーティストをしながら、7年前にアートギャラリーを立ち上げる。建物の1階は姪っ子さんが営む『すずの木カフェ』。ギャラリーでは様々なアート展覧会・ワークショップ・ギター教室などの開催や、独自に開発した編み紙アートの研究と普及にも務めている。
 
 
suzuki-photo-2
 
―鈴木さんと初めてお会いしたのは、いつでしたっけ? 突然でしたよね。

鈴木 クリスマス展覧会を12月にやっていて、それを観にいらしたんでしたよね。インパクトのある作家さんがいて、あれからちょこちょこ1、2か月に1回くらいいらっしゃるようになってね。

―そうでしたね。改めてお聞きしますがSZKギャラリーが出来て今どのくらいなんですか?

鈴木 今度の4月で丸7年になります。その4月には7周年記念の展覧会を開催します。

普段は自分の作品を展示している常設展をしています。自分のオフィス兼ギャラリーという形です。そして定期的に企画展や公募展、様々な作家さんの個展を開催し、各種工作のワークショップも行います。 またクラシックギター教室やフォークソングの会もやったりしています。アートは絵だけじゃなくて音楽もあるし、なんでもありですよ。

suzuki-photo-3

suzuki-photo-4

suzuki-photo-5

―ギャラリーはどういうきっかけで始められたんですか?

鈴木 この場所は元々父親の仕事場だったんですよ。父親が亡くなって、私がこういった形で引き継ぎました。私は元々、イラストとかデザインの仕事をフリーでしていたので、ここはギャラリーとして活かせると思ったんです。父親は絵とは関係ない事務所をしてましたけど。1階は『すずの木カフェ』。ここは姪っ子がやっています。

―『すずの木カフェ』、最近SNSでも見かけることが増えて、茅ヶ崎で人気になってきていますよね。鈴木さんがアートの道に入ったきっかけはなんだったのでしょうか。もともと会社員をしながら並行して活動されていたとか?

鈴木 いえ、始めからフリーでした。大学を卒業したあと、しばらくいろいろなアルバイトをしながらこれから何をしようかと考えていた時期があって。そのときにイラストも描きためていたんです。そのころって、バブルで景気が良く、イラストやグラフィックデザイン業界も勢いがあったんですよ。影響力の大きい公募展とかも全国的に多くて、それに入賞でもすれば大チャンス!みたいな。そういうとこに応募して入選したりしなかったり。それで、そんな生活をしばらく続けたあと、描きためたイラストで個展を開くことにしたんです。それが30年くらい前かな。その個展をきっかけに運よく仕事をもらえるようになって。アルバイトを辞めて、フリーでイラストやデザインの仕事ができるようになりました。そこからダラダラと(笑)。 

―もともとアートを仕事にしたいと思っていたんですか? 学生のころから公募展に応募したりとか。

鈴木 いやいや、公募展などに応募し始めたのは大学を卒業してからですね。それに、アルバイト生活をしていたときには、絵を仕事にしようとは思ってなかったです。もともとイラストを描いたりするのは好きだったんですけど、美大ではないですし、中学・高校も学校の授業で触れるくらいで本格的にアートの活動はしていなかったんです。部活も卓球部でしたしね。でも授業中、教科書のすみにパラパラ漫画描いたりするのは好きでしたね(笑)。

あ、これ、この熊のキャラクターは小学校のときから描いてます。僕、三人兄弟で、一番上が男でその次が女、一番下が僕で。これが3番目の男という意味で「三郎」って名付けられました。

suzuki-photo-6

―そうだったんですね。ちなみに、当時のアルバイトは何をされていたんですか?

鈴木 一番長かったのは、医療検査(笑)。血液の検査会社みたいなところです。2~3年はやったかな。だから、その医療関係の資格とか取ってもいいかなと思ってました。やっぱり卒業後もそういうアルバイト生活をしていたら家から色々言われたり…悩みの時期でしたね。いろいろやってみて、その一つがたまたま見えてきたという感じで。

suzuki-photo-7

―鈴木さんはどこでアートを習得されたんですか?

鈴木 全部自己流ですよ。基本的に人に習うの好きじゃないんです(笑)。習うんじゃなくて技を盗む。やりたいことがあったら、まず自分がそれをしているイメージを思い浮かべる。おぼろげにも頭の中にそれが見えたら、まずやってみる。できなかったら盗み、聞き(笑)。誰でもそれで大体のことはできると思うんで、とりあえず自分でやってみることが大切かなと。

―先ほど美大ではない、とおっしゃっていましたが、大学ではどんなことをされていたんですか?

鈴木 大学は早稲田大学で、資源工学科というところに通っていました。石油や石炭、ガスなどを研究するところで、そこを4年間出た後に、応用物理ってところに転科したんです。元々理論物理をやりたくて、宇宙の仕組みを考えたりしたかったんですよね。そこに2年間くらいいたんですが、やってみると案の定難しい。数字で答えが出ることばかりじゃないなとなって、違う表現方法がないかなと思ったときに、数字で表現できないものを絵で表現できないかなと。

―物理に表現のルーツがあったんですね。

鈴木 はい。だから今でもどうやったらうまく宇宙を表現できるか?が自分のテーマになっています。そのせいか、空間の構成がすごく気になります。編み紙アートとかもそれが現れていますね。幾何学というかトポロジーというか。

―鈴木さんは壁に飾る絵だけじゃなく立体物も作られていますよね。私としては、平面だけではない作品、そこが一番響いたところでした。その裏には、宇宙があったんですね。

suzuki-photo-8

suzuki-photo-9

鈴木 ずっと以前から、いつか自分なりの宇宙感をまとめた本でも作れればいいなと思っていますが、まだ全然ですね。

宇宙や物理の理論は色々存在しますが、それが本当に正解かどうかは実際には誰にもわからないでしょう。いちばん現実を不都合なく表現している理論を支持し信じているだけで。異なる理論で同じ値を導き出せることもあります。方法は一つとは限りません。だから自分で納得できるものをその中から探したい。でも見つからない、納得できない。じゃあ自分で考えちゃえばいいじゃん!となる訳で。抽象的で哲学的、あるいは絵画的になっちゃうかもしれないけど。これまでの理論とはガラッと違った視点・切り口で。独自の理論を構築したいんです。量子力学の概念の一つに「不確定性原理」というのがありますが、これをもじって「深く訂正原理」という本にまとめたいと思ってるんですよ!

―哲学の話をすると必ず宇宙の話になってきますよね。ギャラリーの話に戻りますが、フリーのときからほかの作家さんたちとの繋がり作りはされていたんですか?

鈴木 繋がりの輪を作り始めたのはギャラリーを始めてからです。ギャラリーを始めたときはなんとなくスペースをレンタルにだせば人が来てやっていけるかなと思っていたんですが、蓋を開けてみたらなかなかそううまくはいかず……(笑)。実際は自分で動いていかないといけないなと思いました。しかし根っから営業的なことは苦手なので困りましたよ。

なので、ネットワークづくりに関していえば、常になんらかの情報を毎日発信し続けるように心がけています。主にFacebookでの投稿ですが。真っ暗で何もない宇宙空間を果てしない旅を続ける宇宙船と同じですよ。その宇宙船から弱い電波でも発信し続ければ、それは地球にも届くし、いつか見知らぬ宇宙人にも探知されるかもしれないじゃないですか!

―昨年の湘南国際ファインアート展では、海外の方達の作品も多くありましたがどうやってアプローチをしたんですか?

鈴木 ほとんど、Facebook繋がりです。友人のアーティストさんで海外のアートグループなどにも積極的に投稿している方がいて、その方がとてもよく協力してくれて助かりました。そのときは30人くらい集まって、国内作家さんと海外作家さんがほぼ半々でとても充実した展覧会になりました。

―すごいですね! やはり1年目っていうのは相当苦労されたんですか?

鈴木 外国の方とのやりとりはやはり最初はドキドキでしたよ。基本は英語でやりとりしますが、中には母国語が英語じゃないだろうという国の方もいて、その方から送られてくる英文が、なんか不自然なところがあったりして、あ、これグーグル翻訳使ってるな?とか思うと、少し安心できましたよ!

―先日も作家さんはサイズがみんなアバウトと言っておられましたよね(笑)。

鈴木 外国の人というかアーティストはアバウトな人が多いかも。みんなちゃんと展覧会の要項を読んでいるのか?と思います(笑)。でもそれが面白いですよ。こちらの伝え方まだまだ未熟なのかもしれませんけどね!

suzuki-photo-11

―イベントはいつも鈴木さんが企画されるんですか?

鈴木 そうですね。基本的にみんな自分で考えてやっていますね。海外作家さんが参加する国際ファインアート展などは先にお話しした海外作家さんと交流の深い友人が協力してくれたんですけど。

今年の春は4月にギャラリーオープン7周年記念の展覧会をやります。5月にはペットアートの展覧会をやる予定です。去年はテーマが「犬」と「猫」でしたが、今年はついに自分の好きな「熊」です。ペットアートの展覧会は「ペットアートステーション」というギャラリーで行なっているサービスの一環です。お客様の要望に合わせたいろんなペットの絵が描けますよというサービスです。

―鈴木さんのイベントは絵だけじゃないので面白いですよね。

鈴木 ありがとうございます。普通は作品の選別はあまりせず作家さん任せなので、僕も何がくるのかわからない。開けてびっくりみたいな(笑)。アートのジャンルや技法はこだわらないので立体のオブジェなども歓迎してます。また手作りクラフト作家さんも多いので、バラエティーあふれる可愛いアートグッズなども展覧会の楽しみの一つですよ。

―いま、作家さんはどのくらいの年代の方がいらっしゃるんですか?

鈴木 年代は下は小学生から!上は私と同年代の60代くらいまで。とても幅広いですよ。男女の比率は今のところ圧倒的に女性が多いですね。

―湘南にお住まいの方が多いんですか?

鈴木 もちろん地元の方も多いですが、作家さんたちとはほとんどSNS繋がりなので、地域をそれほど意識することはなく、公募展をするときは全国から参加していただいてます。SNSがある今だからできることですね!なかったらやってけないですよ。宣伝するのも広告費もかかっちゃうんで(笑)。

―今後、どんな作家さんに来て欲しいですか?

鈴木 どんな人と限定することはないのですが、意欲のある前向きな心構えのある人は大歓迎です。ギャラリーは作家さんのサポートをすることも使命のひとつだと思いますから、そのような人は喜んで応援したいと思いますよ。

suzuki-photo-12

―アートを趣味だけで諦めちゃう方も多いと思うんですよね。

鈴木 はい。いろんな作家さんいるんだけど、自分の作品に対して評価が低い人が多くて。もっと自信を持って作品発表してもいいと思うんだけど、自分でも自分の価値をわかってない人が多い気がします。なのでここで展示するときは自分で値段をつけてもらうことにしています。自分の作品の価値を見極めて欲しいなと。売れるか、売れないかじゃなくて、値段をつけること自分を見つめ直すことが大事ですよね。もちろん売れるのが一番いいんだけど(笑)。回を追うごとに自分の評価が変化してくる作家さんもいますよ!

―SZKギャラリーも展覧会に出すと繋がりも出来ていいですよね。

鈴木 そうですね。いろんな方が展示してくれることによってまた輪が広がってくるというのが面白いです。いつも展覧会ごとにパーティーをするんですけど、それが結構重要です(笑)。パーティーをやらないと物足りないというか。作品以外の作家さんの一面も見れますからね〜。

suzuki-photo-13

―お客さん目線でも作家さんの生の話が聞けて面白いです。7周年ということでこれから先の展望があれば教えてください。

鈴木 そうですね。ギャラリーというかアートの間口をもう少し広げていきたいと思っています。最近みんなアートに対する関心が低いような気がしていて。下の喫茶店は知っているけども、上にギャラリーがあるのは知らなかったとか、そういう人結構多いんですよ。ギャラリーに入ると高い絵を買わされるというイメージの人も多いんですが、全くそんなことはなくて、もっとソフトに導けるようにしたいなと思いますね。またこれまではギャラリー単独の企画が多かったのですが、これからは外部とのコラボレーションをさらに増やしてゆき、開かれたギャラリーをアピールしていきたいですね。

あと、絵を販売するだけでなく、絵のレンタルサービスを広げていきたいと思っています。作家さん自体も絵を手放すことがなく、いろんなところに飾ってもらえますからね。ご家庭やお店や職場、公共スペースでアートが社会を循環する。そして四季おりおり、TPOに合わせてアートが生活を彩る。そういうことがアート文化の向上には欠かせないことなのではと思いますよ。

suzuki-photo-14

―鈴木さんはアートについての想いが強いですよね。アートの魅力を聞かせて頂けますか?

鈴木 アートは人の心を揺さぶる、語りかけるじゃないですか。文字とか言葉で表現できないものが伝わる。伝えにくいものが伝わるというのがアートだと思います。その大切さを知って欲しいなと思いますね。日常目にする様々なデザインや意匠そして風景でさえもアートの一つで、普段アートを気にしてない人でも実際には気づかないうちにアートの中に浸かってるわけで。つまりアートは生活には欠かせないものなんですよね。

そして特に強調したいのは、アートは心を豊かにする大切な資源なんです。それは何も特別なことじゃなくて、自分自身から生み出すことができるんです。でもそれに気がついていない人が多いのではないでしょうか?気がつけば普段の生活がもっともっと明るく楽しくなると思いますよ。そのためには外からの情報を受けとるだけではなく、常に自分から生み出して自分から発信しようというクリエイティブな気持ちを持つことが大切だと思います。オリジナルのものを作り出す行為というのは、自分探しの旅でもあるんですよね。アートにルールなんてないんで。とりあえず思いついたら手を動かしてみましょうよ!何かが変わっていくはずです。思わぬ素敵な発見もあるかもしれません。気づかなかった新たな自分の才能にも巡り会えるかもしれないんですからね。

―気づかなかった自分……たしかにそうですね。

鈴木 あっ、それとひとつ付け加えたいのは、アートは心のための資源であるのと同時に、商業的にも資源であるわけです。アートが流通することでそこに経済活動が生まれ、アーティストの生活を支えます。そのためにはアートの評価や価値をもっともっと高め確立させることが必要です。アートの火を消さないためにはこれは重要なことで!「アートなんて無料!」と思われてる人も多いですからね〜!

ちょうど茅ヶ崎はハワイのホノルルと姉妹都市になっていますが、お互いのアート交流もあったら面白いのではないかと思いますよ。もしそれが実現すればアートが観光資源ともなる訳ですから。

suzuki-photo-15

―素敵ですね。最後に、人生100年時代を生きるためのメッセージをお願いします。

鈴木 まず、とりあえず年齢のことは考えない。言い方を変えれば人生のタイムリミットは考えない。生きている間はみんな平等で、何やっても自由。誰でも何かを生み出す力を備えていると思うので、誰もが生涯クリエイター。夢とか希望とか、手が届かない憧れを抱くんじゃなくて、やりたいことがあったら予定に入れちゃう。興味のあることは手を突っ込んでやってみれば良いと思います。

あとは、人の言いなりにはならない。何を言われても、ちょっと自分のところにとどめて正しいことかそうでないことか疑う気持ちが大事かなと。自分で納得のいくまで調べた方がいいと思います。

世の中にあることは、ほとんどのことは自分で出来る可能性があると思います。スポーツでもなんでも、イメージを持てれば大体できるんですよね。その仕組みを知っていれば、例えば力では敵わない相手でも、工夫次第でチャンスはありますよね。何歳になっても出来ることです。

―本日は、ありがとうございました。
 
suzuki-photo-16
 
<マイレジェンドから学んだこと>

鈴木さんとは一昨年私が知人の作品をSZK Gallery見に行った際に初めて出会いました。Galleryには様々なアートが展示してありましたが、一番目を引いたのは色紙を編み込んで作った「編み紙アート」、なんと鈴木さんのオリジナル作品とのこと。オモチャの開発に携わっている私はこの発想に大変興味をもったことを覚えています。 そんな鈴木さんへインタビューを行い、印象に残った言葉は「誰もが生涯クリエーター、人間誰でも何かを生み出す力を備えていてクリエーターである」という言葉でした。アイデアは日常に溢れている、何かを生み出すことは誰でも出来る。私も商品・サービスを創り出すことを求められることがありますのでこの想いを日常から意識していきたいと思います。(戸田)

結果を出すことに囚われすぎて、人に言われたことや”よくある”選択肢で自分の道を決めてしまわないこと。やりたいと思ったことに素直に挑戦してみることで見えてくる世界があるということ、を鈴木さんの人生ストーリーをお聞きして感じました。やりたいことに挑戦してみることで結果も後からついてくるんじゃないか?挑戦を楽しんでみたいと感じました。(福間)

インタビュー:戸田 雄輔、福間 貴子
撮影:岩井田 優
文:福間貴子