大切なのは、何を感じ、どうやって生きてきたか。キャリア=“人生”の要素は、仕事やスキルだけじゃない。

Onishi-san photo no.1

大学卒業後、大手警備会社に就職した大西裕太さん。「大学を卒業し、企業に就職する」そんな世間のコースにしがみつくことに必死で、就職活動や新卒当初は、働くこと・キャリアについて深く考えることは全くなかったといいます。そんな大西さんは現在、企業を離れ、フリーで、チガラボスタッフ、OEMOriginal Equipment Manufacturing)、キャリア関連ワークプログラムの3つの活動をして生活しています。自身の経験を活かし、誰かのためになる取り組みの形を地域の中で模索している最中という大西さんに、「失敗に思えた」という休職を経ていまキャリアについて考えること、そして、これからの目標をお聞きしました。

 

いつもどおり、ジミーさんと呼ばせていただきますね。ジミーさんはいま、チガラボのスタッフとしても活動されているんですよね。

大西:はい、チガラボのスタッフは、週に1回か2回くらいです。今は自分の活動のほうに力を入れたくて。

ご自身の活動ですか。

大西:はい。「根本自己分析」というワークセッションを広げていきたいと思っています。就職活動の自己分析をイメージしてもらえれば一番近いかもしれません。「なぜ」を繰り返して根本を探る根本原因解析ってあるでしょう。それと同じように、自分のことを深堀して「本質」にたどり着いたら、その人らしい生き方、道筋が見えるのではないかと思って。どんな要素があれば、その人が幸せになれるのかを考えていくワークセッションです。

なるほど。いまはその2つを軸に?

大西:もう1つ、自分でブランドを持ってAmazonや楽天などでお店を作って販売しています。商品を考えて、海外の工場に依頼して制作してもらい、日本に送ってもらう。OEMですね。

3つの活動で生活されているんですね。

大西:そうですね。でも、それを目指していたわけではないんです。ずっとサラリーマンをするんだろうなと思っていました。

そうなんですね! では改めて、キャリアのスタートからお聞かせください。

大西:大学卒業後は警備会社に就職しました。最初は現場で、24時間365日シフト制。休みはほとんどありませんでした。夜は警備員で、昼はお客様を訪問して機械のメンテナンスや準営業みたいなことをしていました。

Onishi-san photo no.2

就職したときは、「働く」ってどう考えていましたか?

大西:うーん……。「働く」をきちんと考えるところまで至っていなかったかも。前年にリーマンショックがあった時期で、苦労して決まった会社だったので就職できてよかった、って安心感が一番で。「レールから外れなくてよかった」「なんとかしがみつけた」ってそんな気持ちでした。今思えば、世間体を気にしていたなと思います。

それ、すごくわかります。大学を卒業して、新卒で就職する。そういうレールみたいなものありますよね。当時はそれが当たり前と思っていた?

大西:むしろ、ほかに選択肢なんて見えなくて、それしか考えられない状態でしたね。やりたいこと云々より、「なんとしても世間についていかないと」っていう焦りばかりでした。

働き始めてからはどうでしたか?

大西:焦りは継続していました。夜勤の時って待機している時間も多くて、ぼーっとして時が過ぎていくような感覚があったんです。だから、友人から仕事の話を聞くたび、自分のこの状況ってどうなのかな?って。イスとベッドがあるだけのひろーいスペースにぽつんと一人で、考える時間はたっぷりありましたから(笑)。

交代制の、補い合って仕事をする感じは自分に合っているなとは思いましたし、お客さんを身近に感じられたのはよかったです。自分の喜びの根源みたいなものに触れられました。

警備会社といっても、直接お客様と接することも多いんですね。

大西:昼間はお客様のところに行くのが仕事ですからね。一人暮らしのおばあちゃんに呼び出されて行ってみたら、お茶とお菓子が用意されていた、ってこともありました(笑)。孫が来た、くらいの感覚で迎えてくれたりして。人の役に立っている、貢献できているという喜びはありました。

そこでの仕事はいつまで?

大西:現場は3年くらいですね。そのあと、経理に異動になって本社に。

仕事内容、ガラッと変わりましたよね。

大西:そうですね、会社に入り直したみたいな感じで(笑)。同じフロアに100人くらいがいるのに全く話声がしない……という環境にまずびっくりしました。経理の仕事の特性上仕方がないんですが、会話がないのが一番辛かったですね。決まり事も多いし、柔軟さというより、“正しさ”で勝負するようなところもあって、そこは馴染めなかったです。

でも、面白かったことももちろんありますよ。会社のお金の流れが全部見えること。それから、現場の時には従っていたマニュアルを、今度は作る立場になって、どうやったらわかりやすいかを考えることは楽しかったです。

Onishi-san photo no.3

やりがいを感じていたんですね。いまされている3つの活動って、会社員時代とは全く異なりますが、変わったきっかけはなんだったんですか?

大西:OEMは、経理に異動した時から副業で始めていました。現場にいたときは、考える時間はたっぷりあるけど、それを実行する時間がなかった。対して経理では、平日夜と土日が空いたので、時間が余ったように感じたんですよね(笑)。体力も有り余っていたし、別の活動を模索してセミナーなどに顔を出していたらご縁があって。

キャリアに目を向け始めたのは、鬱で会社を休職した経験からです。

休職されていた期間があるんですね。

大西:はい。経理になって2年くらいたった時、会社の全資産を管理する仕事を任されたんです。大役で、期待されてるんだ、ってやりがいはあったけれど、引継ぎがうまくいかなくて……残業は嵩む、そうすると上司に怒られる。その循環で、ある日寝られなくなって。それでも最初は普通に働けていたけれど、次第に仕事に支障がでるようになりました。

そのとき、会社や社会はどういうものに見えていましたか?

大西:うーん……当時は何も考えられない状態で……時間が経ったいま思うのは、もっと仕事の中で自分の想いを出していっても良かったのかなってことですかね。当時は、上司しかり、周りはこうしてほしいんじゃないかってことをくみ取って動こうとしていたんです。そのことは、一度休んで離れてみたからこそ気づくことができました。

自分を閉じ込めていたようなかんじですね。休職中はどんなことをされていたんですか?

大西:身体が回復してからは、朝からノートとペンを片手にカフェに行って自分の人生を考えてみたり、それこそ自己分析を。2か月くらいやっていたら、だんだん自分が好きなことがわかってきたんです。そうしたら今度は、ほかの人から自分がどう見えているのかが気になり始めて、そのタイミングでチガラボに来ました。休職した経験とかをオープンに話していると、「実は私も」って話してくださる方もいて。もやもやを抱えながら働いている人がいるんだって、気付きがありました。

Onishi-san photo no.4

そこから、キャリアについて考えるようになった?

大西:そうですね。そのままステップアップしていける人はそのまま進めばいい。でも、躓いたりもやもやしたりする人もいる。僕は、そういう人の手伝いができればいいなと思って。

大変な経験から、周りの人にも支援をと思い始めたんですね。

大西:自己分析のセッションでは、幼少期から現在まで、時間をかけてストーリーを聞いていくんです。例えば、都内の病院じゃ患者さんとしっかり向き合えないからって、離れ小島で看護師として働いていた方とか。

へー!すごいですね。

大西:そうなんです、すごい経験を持っている。でも、そんな人でも「わたしにはなにもない」って言うんです。なんでだろうって考えてみたら、「持っている」って、みんな経験じゃなくてスキルのことを話してるんですよね。資格とか、プログラミングとか。スキルがない自分にはなにもできないって考えている。

すごくわかる気がします。なにかスキルを持っていないとって思っている人は多いと思う。

大西:休んでから気づいたんですが、人の役に立てることってスキルより経験なんじゃないかと思うんです。そう思ったら、何をしているのかと同じように、なぜそれをするのか?って動機も知りたくなったんです。

すごい。すごく共感します。

大西:ありがとうございます(笑)。自分はこういう経験をしてきましたって、みんなが自信を持って言えるようになるといいですよね。僕だって、いまお話ししている休職のこととか、最初は失敗だって思っていたけど、だからこそキャリアに目を向けるようになった。どんな経験、たとえ失敗でも次に進むためのステップだったんだって思えるといいなと思います。

Onishi-san photo no.5

僕は、今までの人生振り返ると、特別大きな失敗って思い当たらないんです。でもそれって、自分ができる範囲に留まって、挑戦してなかっただけじゃないか?っていまは思います。失敗したほうがそこから学べるし、それに、それが「失敗だ」って思うのは案外自分だけだったってこともあるんじゃないかって。気負わず、怖がりすぎず、気軽に失敗できる環境があればいいなと思いますね。

新しい形でキャリアを進めている最中だと思いますが、これからやってみたいことはありますか?

大西:いま構想しているのは、生き方図鑑のようなものが作れたらって。職種に焦点をあてたものはありますよね。でも、同じ職種でも、人それぞれやりがいを感じているところは違うと思うんです。だから、一人ひとりが、どうやって生きてきたかを見にいきたい。ハッシュタグ検索できたり、自由に見られるようにして、いまの自分と違う生き方をしてみたい人の参考になるものになれば。そこから興味を持った人にアポイントとれたり、登壇するセミナーがわかったり、直接会えるところに繋がったら面白いのかなと。

面白そうですね!そのプロジェクト、わたしも一緒にやりたいです。

大西:ありがとうございます!ぜひ。まだ実際に動けてはいないんです。いろんなところで話をしていって、興味を持ってくれる人を探していけたらなと思っています。

Onishi-san photo no.6

最後に、ジミーさんにとって「キャリア」ってなんですか?

大西:キャリア=人生、に近い気がしますね。職種や仕事内容ではなくて、人生での経験すべてがキャリア。家族や友達、趣味……人生の要素って仕事だけじゃない。だから仕事にとらわれすぎずに。人と話すことも大切です。自分の目線が違うところに向いたら、それだけでもたくさんの新しい気づきがあると思います。

ジミーさんの経験重視の考え方が広まっていったらいいなって、心から思います。キャリアラボの活動が楽しみですね。

大西:そうですね。やりたいことがたくさんあって、これからが楽しみです。

<インタビューを終えて>

大西さんの、「スキルではなく経験にもっと目を向けよう」という考えに大変共感しました。誰もがそれぞれの経験から繋がる「スキル」を持っていて、それを柔軟に考えられる世の中になってほしいですね。大西さんの考え方や経験は、キャリアのレールや何かに囚われている多くの方に勇気を与えると思います。インタビューでは、質問に対してじっくりと、一言一言を丁寧に優しい言葉で返して頂きました。これからもあらゆる方の気持ちに寄り添い、自分らしい生き方を広げていってほしいです。(山添夏奈)

インタビュー:山添 夏奈
撮影:安部 翔吾
編集:もりおか ゆか