ハンデを理由にやりたいことを諦めたくない。どんな経験でもすべては新しい自分になる機会。前進あるのみ。

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「周りの人が幸せなことがわたしの幸せなんです」笑顔でそう話すのは、菊池小夏さん。インタビュー中ずっと周囲への感謝とつながりの大切さを口にしていた小夏さんは、17歳のとき生死をさまよう事故にあい、いまも手足と両目にハンデが残っています。しかし、「事故はいい転機だった」といまの自分を形作る一つの経験として受け入れ、前に進み続ける小夏さん。「障害があるからできないって言いたくない」と芯の強さを見せる小夏さんに、人生ストーリーをお聞きしました。

―以前イベントでお会いしたとき意思の強い方だなという印象があって。一度お話してみたいなと思っていたんです。小夏さんはずっと茅ヶ崎ですか?

小夏 はい、生まれて2~3か月で茅ヶ崎にきてそれからほとんどずっと。茅ヶ崎の緩い感じとか温かい雰囲気が好きで離れられないなって。

―小夏さんとはまだ2~3回くらいしかお会いしていないですけど、茅ヶ崎愛が強いなって気がしていました。

小夏 そうですね。でも小さいころから地域との関わりが深かったわけではないんですよ。わたし17歳のときに事故にあっていまも手足と両目にハンデが残っているのですが、事故後、リハビリを終えて茅ヶ崎に戻ってきたとき母が地域とつながるきっかけを作ってくれました。就労支援施設に通う毎日だったわたしに、「小夏は人とのつながりを持つ機会が必要だと思う」ってNPO法人湘南スタイルに関わることを勧めてくれたんです。それでイベントの手伝いとかするようになって。それをきっかけに、ご縁、ご縁でつながりが広がっていっていまに至ります。

―いろいろな経験をされていますよね。

小夏 わたしって、ダメもとで救ってもらった命なんですよ。ふつうであれば手術対象外になるくらいひどい状態で運ばれてきたんですけど、たった一人、「ダメもとで手術をしてみませんか」って言ってくださるドクターがいて助かったんです。脳外科では「奇跡の子」って有名らしくて(笑)。そうやって救ってくださって、ほんとうにありがたいですよね。

―17歳でそうした経験をされて人生観とか変わった部分はありますか?

小夏 変わりましたね~。一番は、周りの人に感謝して人とのつながりを大切にするようになりました。というか、前がひどすぎたというか(笑)。

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中学・高校時代は、派手で、俗にいうヤンチャな子だったんですよ。もともとの性格も極端で、自分がこうしたいと思ったら猪突猛進。だから母とか周りの人は振り回されていたと思います。でも、事故にあって入院生活になったとき母や親戚が毎日お見舞いに来てサポートしてくれて。そのとき、「周りの人があっての自分なんだ」って気づいたんです。リハビリの先生にも言われたんですけど、毎日家族や親がお見舞いに来てくれるって少数派なんですよね。特に母はどんなに仕事が忙しくても時間をつくって来てくれて。ほんとうに感謝しているんです。

―小夏さんとはこのあいだ「Points of You」のイベントでもお会いして、いろいろ積極的に活動されているなと思いました。

小夏 事故にあうまでは勉強なんてなにが楽しいんだろ?って思ってたんですよ。でも、ダメもとの手術で救ってもらった命だから、「ダメでもともと」が基本の精神になって。そうすると、失敗しても「仕方ない。次、考えよう!」って結構前向きにとらえられます。「ダメでもともとだから、興味があることはまずチャレンジしてみよう」ってちょっとでも興味あるなと思ったものはあちこち顔出しているから「小夏ちゃん、なんかいつもいるね」みたいになっているんですけど(笑)。

―(笑)。

小夏 事故にあってから、周りから「若くして事故にあって障害が残ってかわいそう」っていう目で見られるのがすごく嫌で。大変ではありますけど、かわいそうではないですよ。

もともとドクターからは「目が不自由で危ないから一人で外出しないほうがいいよ」って言われていたんですよ。でも、わたし17歳ですよ? 事故にあったとき。17歳から先の人生って楽しいことがたくさんあるじゃないですか。家の中で経験できることって限られてしまうし、素直に受け入れて終わらせたくなかったんです。少しケガをしたっていいから挑戦してみようって。初めて一人で外出したのは美容室。そのとき無事に帰ってこられたから、母から外出許可がでました(笑)。

―すごい、やっぱりハートが強いんですね。

小夏 強いんですかね(笑)。でも、昔から自分がやりたいとかこうしたいと思ったら曲げない性格かもしれない。

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―こうした状況になってさらに強くなったというのもありますか?

小夏 そうですね。「障害のせいで」「障害があるから」って言葉を使いたくなくて。なんだか言い訳みたいに思えてしまうんですよね。「障害のせいでできません」っていったら、「じゃあどうしてあげたらいいの?」って周囲を困惑させてしまうことにもなるし、できる限りは自分でやれたらいいなって。

―やっぱり強いですよ。

小夏 ほんとうに自分は恵まれていたなって思うんですけど、わたしは子どものときから親や家族以外に叱ってくれる人が必ずいたんですよ。いまの時代よその子どもを叱るってなかなか面倒だったりするけれど。中学時代の担任も、間違った道に行きそうになったらちゃんと叱ってくれながら、いろいろなチャレンジをさせてくれて。そうした経験が強さになっているのかもしれません。叱るってその人のことを本気で思っていないとできないことですよね。

―きっと小夏さんだからこそ、引き寄せているんでしょうね。小夏さん自身、チガラボチャレンジによく参加されているので、誰かのやりたいことを聞いたり応援するのが好きなのかなって思っていました。

小夏 みんなでなにか一つのことを成し遂げるのがもともと好きですね。自分一人がなにかすごいことを達成するよりも、周りの人が幸せな姿を見ていることで、自分も幸せだなって思うんですよ。だからYouTubeはカップルユーチューバー見るのが好き(笑)。誰かと幸せを共有したいというか。

―素敵ですね。

小夏 かわいいとかきれいとか言われるよりも、「小夏ちゃんといると楽しい」って言われることが幸せだし、自分がキャラクターを演じてでも周りが笑ってくれるならそれが幸せって思います。なんかお笑い芸人みたいですよね(笑)。

―いやいや、大人ですよね。

小夏 どうなんでしょう、周りからは変わってるねって言われますよ(笑)。でもそう思えるようになったのも、やっぱり事故の経験で、「周りあっての自分」って気づいたから。人からのサポートや出会いがなかったらたどり着けなかった場所もあるじゃないですか。人に恵まれてここまでこられて自分はいま幸せだなって思いますし、だからこそ、周りが幸せだったら自分が幸せだし、みんな幸せになってほしいなって思います。

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―なんだかハッピーオーラがすごい! 小夏さんの明るさがいろんな人に影響しているんだなって思いました。

小夏 えーそうかな、そうだといいな。

―これからやってみたいことや実現したい社会の姿みたいなものはありますか?

小夏 いまキャリアコンサルタントの勉強をしているんですが、その中で、自分がいままでいかに社会の一部分しかみえていなかったかってことに気づかされました。だから、わたしのように障害を持つ人やご病気で療養中の方、ご家族の介護などなにかしら不自由を抱えている人がずっと社会とのつながりを持ち続けられるようにサポートしていきたいと思っています。

わたしはNPO法人湘南スタイルでつながりがあった企業で働き始めて4年目になるんですが、後天的に障害を抱えると、まず自分がその障害を理解して受け入れるのも時間がかかるし、それを周囲に説明できるようになるのも時間がかかる。わたしも5年くらいかかりました。周囲にこうしてほしいってことがあってもなかなか言いづらいと思いますし。だから、単に仕事を斡旋するというよりも、適切なマッチングができるようになりたいんです。

仕事だけではなく、なんらかの理由で学校に行きづらくなってしまった子どもも。わたしは事故で高校に通えなかったからこそ、やっぱり学校って行かないと後悔すると思うんです。だから、いけない理由とかもききながらサポートしていけたらいいなと思います。

―やりたいことがたくさんあるんですね。具体的なものを描いているから、どんどん実現していくんだろうなって思います。

小夏 挙げたらきりがないんですよね(笑)。少しでも社会に役立つことができたらいいなと思って。まずは身近なところで、例えば今の職場の社員さんのメンタル面のサポートとかから入っていけたらいいなと思っています。「ダメでもともと」だから。挑戦しないと。

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―すばらしいです。やっぱりお話お伺いできてよかった! さきほど事故から自分の中で納得するまでに5年かかったって仰っていましたが、葛藤とかもあったんですか?

小夏 「なんで自分だけ?」とかは思わなくて……わたしにとってはあるべき転機だったんだって。事故があったからこそ、周りの人の大切さに気付いたり、なんだろ、得るものがあったんですよね。

―事故をいい転機だったって思えるのがすごい前向きですよね。いろんな人を勇気づける言葉だなと思います。

小夏 こうして言えるようになったのも、やっぱり周りの人のおかげ。わたし英会話にずっと通っているんですけど、そこの先生に言われたことが印象に残っていて。

事故にあってから杖をつき始めて、最初は周囲の目を気にしていたんですよね。ただでさえ10代って、まわりからどう見られるかに敏感な年ごろじゃないですか。そのことを外人の先生に話してみたら、「僕も身長2メートルくらいあるから、日本のおばあちゃんとかにすごいじろじろ見られるよ。そういうのと一緒だよ」って(笑)。なんかすごい元気をもらって。そこの先生はいつもそうして見方を変えるような一言をくれるんですよ。

―自分が思っていることも、他者の視点でとらえ方って変わりますよね。

小夏 日本と海外、育つ環境でも人って変わってくるんだなって。甥っ子がいま5歳なんですけど、甥っ子は生まれてずっと身近にハンデがある人がいる環境。だから自然と配慮ができる子に育っているなって思います。

―とても温かいご家族ですよね。小夏さんはいまキャリアをどう考えていますか?

小夏 キャリアって職歴や学歴だけではなくて、自分が出会ってきた人、やってきたこと、それ全部がキャリアだなって思うんです。自分の中の人生ストーリー。働き始めて最初のころは、なにかやりたいことがあっても、自分は学歴も後ろ盾もないから難しいよなって思っていたんですよね。でも、キャリアコンサルタントの勉強をして変わりました。17歳で事故にあって、高校も通っていないし履歴書にかけるようなことはないかもしれない。だけど、人生ストーリーというキャリアは、ちゃんと持っているのかなといまは思っています。

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―履歴書と別のこととして捉えられているんですね。

小夏 はい。キャリアコンサルタントの勉強をしてほんとうによかったなって思います。この資格もいまの会社の社長から勧められたんですよ。学校に通い始めたら意外と向いてるかもって楽しくなって。それこそ、Points of Youみたいにフォトカードをつかって人との視点の違いを知るカウンセリングとか始めても面白そうだなって思っています。そういえば、Points of Youの講師資格をとったのもチガラボで会った人とのご縁だったな。

―それもご縁だったんですね。

小夏 そう、だからほんとに人との出会いが次の人との出会いを呼んで、人生の幅を広げていくなと思っています。人とのつながりって財産だなって。

だからこそ、人生のなるべく早い段階で、親や先生のような人生の途中で必ず出会うであろう大人以外の大人と出会う場所はすごく大事だなと思うんです。このチガラボも高校生くらいのメンバーもいるみたいで、ほんとにうらやましい(笑)。

―そうですよね、わたしもそれ思います(笑)。

小夏 社会人になると新しい友達ってなかなか増えないじゃないですか。でも、会社や家族、学生時代以外の友達を増やしていくことって大切だと思うから、先輩と一緒に社会人飲み会とかも企画しているんですよ。

―つながりを提供することも始めているんですね。最後になにか伝えたいメッセージはありますか?

小夏 人との接し方の一つなんですけど、誰かに出会ったとき、感情的・瞬間的に嫌いだ、自分とは合わないって思っても、いったん「相手にとって自分はどう見えているんだろう」って落ち着いて考えてみてほしいんです。

例えば会社でもこの上司の言ってることピンとこないなとかあると思うんです。でも、その上司の立場にたってみて「自分にどうなってほしいから、そんなふうに言っているんだろう」って考えてみたら、意外とすんなり受け入れられるかもしれない。

わたしも昔は嫌いって思った人は二度と好きにはならないってタイプの人間だったんですよ。でも、苦手だなって思う人の立場・目線に立って考えてみたら気づくこともあるかもしれないし、もしかしたら将来的にその人に助けられることもあるかもしれない。完全にシャットアウトせずに緩やかに人とつながっていくのがいいんじゃないかなと思います。

―相手の深いところまで考えて接していくってことですね。そのメッセージは強いと思います。素敵なメッセージをありがとうございました。

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<インタビューを終えて>
小夏さんの前向きさには終始圧倒されました。ご自身の経験を転機だったと言えること、また何度も周りへの感謝についてお話されていたのが印象的です。小夏さんの明るさ、人を惹きつける力がご縁の循環を導いているのだと思いました。またキャリアについても履歴書や学歴でない、人生ストーリーだと話していたことに心打たれました。小夏さんの一言一言が名言のように響き、私の中でも強く残っています。小夏さんならではの役割で、これからも多くの方に勇気と希望を与えてほしいです。(山添)

インタビュー:山添夏奈
撮影:石坂佳祐
文:もりおかゆか